概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

中国各地で無差別殺傷事件が相次いでいる。景気低迷を背景に、自暴自棄となった若者らが犯行に及んだと見られる。中国政府は監視と情報統制を強めているが、問題の解決にはつながらないだろう。中国社会で何が起きているのか。興梠一郎・神田外語大教授と柯隆(かりゅう)・東京財団政策研究所主席研究員を迎えた昨年11月18日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

殺傷事件頻発中国社会の「闇」

国民の鬱屈した怒り

「中国経済は完全に下り坂で、富の分配も非常に不公平だ。中国には困窮を相談する窓口がなく、社会的弱者になった瞬間に孤立する。絶望から犯行に走る社会背景がある」=柯隆氏

「中国は新型コロナウイルス対策でロックダウンを行い、社会の閉塞感が高まっていた。コロナが収束すれば、経済も社会も良くなると思っていたが、悪くなる一方で、国民には鬱屈した怒りのようなものがある」=興梠氏

飯塚最初に衝撃を受けたのは、昨年9月、広東省深圳で、日本人学校の男子児童が登校中に中国人の男に刺殺された事件です。11月には、同省珠海で男が車を暴走させ、35人が死亡しました。さらに江蘇省無錫の専門学校では元学生の男が刃物を振るい、8人が亡くなりました。湖南省常徳でも車が小学校前の人混みに突っ込み、児童らが負傷しました。無防備な人たちを狙う凶悪事件が、短期間でこれほど起きる社会は尋常ではありません。

興梠さんは番組で、現在の中国社会の様子を「殺伐とした邪気の中にある」と表現されました。柯隆さんも、相次ぐ事件には共通する背景があり、点で起きている事件が面に広がっていく可能性に懸念を示されました。

北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ
中国での殺傷事件©️日本テレビ

吉田中国政府は、それぞれの事件の動機などについて詳細を明らかにしていません。SNSへの投稿も規制しているようです。当局は次に波及しないように必死ですが、事件は続いています。コロナが収束しても景気は回復せず、不動産バブルがはじけ、若者の失業率は高止まりしています。監視社会と言われる中国でも、国民の不平や不満がたまり、もう隠しきれなくなっているのではないでしょうか。

中国政府は、本来なら経済の改革に力を入れるべきですが、うまくいかないので、さらに監視を強めて抑え込もうとしています。それで本当に社会が良くなるのでしょうか。ただ、欧米や日本でも、経済指標や企業業績が改善しても、その恩恵が自分には届いていないと感じる人は増えています。捨て鉢になり、凶悪事件に加担する人もいます。そこは注意するべきです。

飯塚同感です。ただ、私たちと中国では、社会保障の仕組みに違いがあります。中国では、社会的弱者を救うセーフティーネットがしっかりと整備されていないようです。私たちからすると驚くことですが、生活に困った時に相談したり、支援を受けたりする窓口が整っていないのです。孤独を和らげるような心のケアも大切です。

中国では、こうした仕組みを整えるより、手っ取り早く、事件を起こしそうな人を探して未然に防ごうとする動きが出ています。香港メディアによると、広東省当局は、職を失った人、人間関係で不和を抱える人、精神的なバランスを失った人など八つの基準を設け、これらに該当する住民を探し出すよう、各地域のコミュニティーに指示を出したといいます。こうした監視制度は一時的な効果はあるかもしれませんが、中国の人口の多さを考えるとキリがありません。うまくいかないと、さらに力で抑え込む。でも抑えきれないという悪循環に陥るでしょう。

北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ
分析 中国当局が探す”8つの「喪失者」”とは©️日本テレビ