概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

中国の新興企業・ディープシークが開発した生成AI(人工知能)。低コストかつ高性能とされ、世界に衝撃を与えた。一方で、個人情報を抜き取られるなどの懸念も広がる。生成AIをめぐる覇権争いは、米中関係や日本にどのような影響を与えるのか。鈴木一人・東大教授、中林美恵子・早大教授を迎えた2月3日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

中国生成AI深刻な懸念

度を越す情報収集

「米国の情報機関や議会は、ティックトックの時のように、ディープシークが個人情報をどのくらい取るのかを調査するだろう。世論操作は民主主義の大きな脅威になる」=中林氏

「中国の生成AIは、中国共産党の見解を最初から学習させている。そうしないと、中国でAI開発はできない。ディープシークを使えば、当然共産党の見解が出てくる」=鈴木氏

飯塚新興スタートアップ企業であるディープシークが開発した生成AIの性能の高さに、世界が驚きました。その個人情報の保護やデータの収集のあり方について、懸念が高まっています。韓国政府は2月、ディープシークのアプリの新規ダウンロードを制限しました。現地報道によると、ディープシークは、利用者の情報を本人の同意を得ずに、中国発の動画共有アプリ・ティックトックの運営会社バイトダンスに提供していたことが明らかになったといいます。使用規制はイタリアに次いで2例目となりました。

急拡大 中国の核弾頭5年後1000発超か©️日本テレビ
警戒「ディープシーク」個人情報流出の懸念©️日本テレビ

セキュリティーの問題は、このほかにも明らかになっています。利用者のキーボード入力の癖まで収集したり、利用者の情報を中国通信大手・チャイナモバイルにも提供したりしているとされます。キーボードの入力パターンから、パスワードを読み取られる危険があるというのです。ディープシークが公表している個人情報取り扱い指針を見ると、利用者の情報は中国国内のサーバーに保管し、中国の法執行機関や公的機関などと共有することがあると定めています。私たちの個人情報やデータが中国当局に収集される可能性があるわけです。中国は徹底して情報を収集しようとしています。私たちも情報の取り扱いに敏感になり、安易に使用するべきではないでしょう。

吉田日本でも、ディープシークの懸念について、国会で取り上げられたり、政府が各府省に慎重な対応を呼びかけたりしています。民間企業でも、使用を禁止したりする動きが広がっています。一度使ってしまうと、知らず知らずのうちに、中国に情報が渡る危険があります。政府や企業の秘密だけではありません。大学や研究機関の研究も注意しなければなりません。中国には国家情報法があり、企業などに情報工作への協力を義務づけています。当局から利用者に関するデータの提出を求められれば拒めません。

日本の対応は、果たして十分なのかどうか。情報を取られるだけではありません。ゲストの鈴木さんが指摘されたように、生成AIは学習した内容次第で、出てくる答えが変わります。中国の生成AIは、巧妙に中国の立場を代弁するような答えを出します。思想の自由や言論の自由にかかわる問題であり、ここで中国に主導権を握られると大変なことになります。米国は先端半導体の輸出を規制し、中国のAI開発を抑え込もうとしましたが、中国はディープシークを開発しました。それだけに、米国が受けた衝撃は大きかったと思います。日本も、デジタル空間の潮目が変わる恐れがあるという認識を持って対応するべきです。

急拡大 中国の核弾頭5年後1000発超か©️日本テレビ
競争 中国AI「ディープシーク」の台頭©️日本テレビ