『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』著:黒川祥子

 

模索しながら一歩踏み出す当事者と家族のすがた

今最も世間の関心を集めているのが、この「8050問題」ではないだろうか。それは文字通り、80代の親がひきこもりの50代の子の生活を支えている家庭、そこから派生する問題を指す言葉だ。

昨年、内閣府は初めて40代以上のひきこもりの調査結果を発表した。それによれば40〜64歳の「中高年ひきこもり」が推計61万人以上になることが明らかになった。衝撃的なのは15〜39歳の若年ひきこもり推計54万人を上回ったことだ。ひきこもりの長期化、高齢化が浮き彫りになったのである。

その調査結果発表後に起きた2つの事件(神奈川県川崎市の無差別殺傷事件と元農水事務次官による長男殺害事件)により、中高年ひきこもりと家族の問題がクローズアップされたことも記憶に新しい。

本書は「8050問題」について、当事者とその家族に焦点を絞ったルポだ。ここには7つの家族が登場する。それぞれの事例は悲惨だが、ひきこもりのほとんどの場合が親との関係から生じていることがわかってくる。高度成長期に働き盛りだった親世代が押し付ける「昭和的」成功の価値観から外れてしまった50代の子どもたち。

しかし読みどころは、その絶望的状況から踏み出そうとしている姿まで追っているところである。支援センターの人たちと模索しながらの一歩だが、希望が見える。親との関係でひきこもっている以上、もはや家庭だけで解決するのは不可能だと著者は言い切る。

〈真っ先に訴えたいのは、今すぐにでも、ひきこもりの子どもを抱え込んでいる親は外部に向けてSOSを出してほしいということだ〉。切実な思いがひしひしと伝わってくる。

『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』
著◎黒川祥子
集英社 1500円