COLD WAR
あの歌、2つの心
脚本/パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ
出演/ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、ボリス・シィツ、
アガタ・クレシャ、ジャンヌ・バリバールほか
上映時間/1時間28分
ポーランド・イギリス・フランス合作
■6月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開
冷戦下、時代に翻弄される恋人たち
郷愁を誘うモノクロ映像。素朴な農民たちが奏でる民族音楽に男が熱心に耳を傾け、録音する。第二次大戦後のポーランドを舞台にした本作はドキュメンタリー映画のように始まり、農村の風景、農民たちの表情、音楽、そのすべてを愛おしげに見つめる男ヴィクトル(トマシュ・コット)が強い印象を残す。ピアニストである彼とその仲間はポーランドの民族音楽を“収集”し、1949年にそうした音楽とダンスを伝承する国立のマズレク舞踊団を立ち上げる。その入団試験で、射抜くような眼差しと歌唱力で彼を惹きつけたのが金髪のズーラ(ヨアンナ・クーリク)だ。
舞踊団が成功を博すなか、2人は恋に落ちる。だが、ヴィクトルは西側の音楽に傾倒し、舞踊団がソ連全体主義のプロパガンダとして利用されることに違和感を抱くようになる。52年、東ベルリンでの公演が決まると、彼は亡命を決意してズーラを誘った。ところが、彼女は待ち合わせの場所に現れない。
こうして、パリに亡命したヴィクトルと舞踊団に残ったズーラは、10年以上にわたり再会と別れを繰り返すことになる。ズーラとヴィクトルは互いに、相手を誰よりも大切な人だと思いながらも、自分の意志を曲げない。国を捨てても音楽に生きるヴィクトル、変わりゆく国から逃げずに才能を活かすズーラ。心は強く結びついていても、一緒にはいられない彼らの関係、移り変わる時間や場所を、さまざまなバージョンで歌われるポーランド民謡の「2つの心」が象徴する。
なかでも、ジャズ・バージョンの「2つの心」が耳から離れない。ズーラが57年に合法的に出国すると、ようやく2人はパリで一緒に暮らし始める。いわば、幸せの頂点ともいえるとき、ヴィクトルが出演するクラブで、ズーラがこの曲を歌った。透明感のある声で、アンニュイな雰囲気を漂わせて歌う彼女は妖しいほどに美しく、ピアノを弾き、その姿を見つめて穏やかに微笑する彼も輝いている。
ヴィクトルのプロデュースにより、フランス語訳詞の「2つの心」でズーラはレコード・デビューを果たすが、同棲は長くは続かなかった。フランス語バージョンはオリジナルに比べるとどこか冷たい印象がある。コントラストの強いモノクロで映し出されるパリの2人は美しく、はかない。一緒に過ごしても、結局はひとつにはなれないのだ。
舞踊団入団時の少女から、激しさと強い意志を持つ成熟した女性となるズーラを演じるクーリクが妖艶な魅力を放つ。亡命者の複雑な心を滲ませるヴィクトル役のコットは、やつれても気高い。冷戦下のポーランド、時代に翻弄され、激しくも冷静な2つの心が織りなす究極のラブストーリーだ。
クリムト
エゴン・シーレとウィーン黄金時代
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ウィーンで革新的な作品をうみだしたクリムトとシーレ。2人の画家を軸にしながら、音楽、建築、文学、さらに女性たちの変化を通して、世紀末ウィーンを解き明かすドキュメンタリーだ。クリムト、シーレの絵画を堪能し、世紀末ウィーンの奥深さに感銘する。シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開中
パピヨン
1930年代、仏領ギアナの流刑地送りとなった終身刑囚の脱獄劇を、45年ぶりにリメイク。冷静に脱獄策を練る現代風のパピヨンをハナムが好演する。彼と稀有な友情で結ばれるドガ役は、『ボヘミアン・ラプソディ』で一躍スターとなったマレックだ。希望を捨てない男たちが熱い。6月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開