安倍総理は漢字の読み間違えなど、批判されることが多いが、言い回しへのこだわりは強いようだ

 

 
専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、「安倍総理の【頭の片隅】」を解説します。

「には」と「にも」の使い分けは?

いっとき政界に吹き荒れた「解散風」も結局はどこかへ消えてしまったが、この間、誰もが注目したのが、衆議院解散権を持つ安倍総理の動向だ。

なにしろ、解散・総選挙を実行するかどうかは、安倍総理の頭の中次第なのだから。おまけに、永田町(政界)には「解散の時期について、総理は噓をついてもかまわない」という奇妙な不文律がある。そのため、マスコミは2019年初めから、安倍総理に対して、しきりに「解散(参院とのダブル選挙)はあるの?」と聞き続けた。それに対する安倍総理の答えは、いつも「頭の片隅にもない」あるいは「片隅にはない」だった。

通常国会終盤の6月19日、約1年ぶりに行われた党首討論でも、野党である日本維新の会の片山虎之助共同代表から「解散は?」と聞かれた安倍総理は、「解散という言葉は頭の片隅にはない」といったのち、「片隅にはないし、片隅にもない」と再度述べた。

実は、「には」と「にも」では大きな違いがある。「頭の片隅にも」であれば、頭の中にはないとなるが、「片隅には」だと、頭の中のほかのところにはあるかもしれないからだ。

かつて、某総理はマスコミから「総理、解散は?」と聞かれ、「頭の片隅にはない」と答えてから、それほど間を置かずに解散・総選挙に踏み切ったことがある。選挙後、マスコミから「『頭の片隅にない』といったじゃないですか」と問われたこの総理が何と答えたか。「うん、片隅にはなかったが、真ん中にあった」である。そういえば、「このはし渡るべからず」との看板を見た一休さんが「橋の真ん中」を渡った、というトンチ話があったっけ。