みんなの「わがまま」入門

著◎富永京子
左右社 1750円

上手にわがままを言うための
エクササイズも

社会のなかで、誰もがいつかは「弱者」になる。病気になったり、介護や子育てで時間的・金銭的な余裕をなくしたりすると、健康で大過なく生きている人たちのためのルールや慣習についていけなくなる。けれどもそこで「弱者のことも考えて」と声をあげるのは難しい。黙殺されるか、反撃されるか。いずれにせよ自分が損をするだけなら、黙っていようと思ってしまう。

自分の立場を守るには、どうすればいいか。この本の著者は、社会運動をしている人たちを間近で観察している学者だ。個人が意見を言うと、なにかの「陣営」に属している人だと見なされる空気、あなたの困り事のすべては自己責任なんだから他人に文句を言うなという世間の圧力。そうした壁との闘い方を少しずつ教えてくれる本だ。

闘うと言っても全面抗争ではない。女が男に媚びることばかり勧めてくる雑誌や、少数者を見下すようなテレビ番組を作っている人たちにしても、個人としての考え方はさまざまだ。だからこちらも、立場や理念でガチガチに自分を縛らず、休止や譲歩もOK、気負わずに行こうというスタンス。

上手にわがままを言うためのエクササイズ(準備運動)が示されているのもいい。社会の常識がじつはどんどん変化することや、ふだんいかに自分の立場からしかものを見ていないかということを確認するだけで、社会的存在として成長できる。

世の中を敵と味方に分けるのではなく、じっくり観察しながら、自分の足場をゆるゆると、理想に近いほうへ移していく。今すぐに始められそうな小さな行動のためのヒントも満載で、自分もこの社会の一員なんだという実感を確実に育ててくれる。