地震や豪雨災害などによって家族や住まいを失った人々、困窮のため、満足にごはんが食べられない子どもたち。ふと周りを見渡せば、支援を必要とする人たちがたくさんいます。人間の都合で殺処分される犬や猫も──。世界に目を向ければ、戦争や、地球温暖化による環境問題も深刻です。さまざまな社会の課題に対して、行動を起こしてみませんか。遺贈や寄付など、一人ひとりができることについて考えてみましょう

俳優とは、行動する人

充足感につながることから少しずつ。
その積み重ねを大切に

別所哲也

 

俳優としてメディアに登場しながら、国際短編映画祭を主宰するなど、多岐にわたって活動する別所哲也さん。被災地支援をはじめ、さまざまな社会貢献にかかわっています。その原点とは——

映画で世界の課題を知って

20代の頃にハリウッドで映画デビューしました。当時アメリカの俳優学校で、「アクター(俳優)というのはアクト(行動)する人だ」と教わった。つまり演じるだけではなく、アクティビスト(活動家)なんです。実際に社会貢献にかかわることは当然という意識を多くの俳優たちが持っていて、寄付などの支援をしたり、自分の考えや活動を発信したりしている。彼らの行動が人々のロールモデルとなっています。

アメリカでは、チャリティーの精神が根づいていると感じました。小さい頃から、お小遣いやお手伝いでもらったお金を「使う」「貯める」「寄付する」の「三つの財布」に分けよう、と教わっているんですね。僕もアメリカで過ごした経験によって、寄付などの社会貢献活動は生活に身近なものだと捉えるようになりました。

アメリカでショートフィルムの面白さに開眼した僕は、日本に帰国後の1999年に、国際短編映画祭「アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル(現・ショートショート フィルムフェスティバル&アジア)」を設立。その時、海外から来た監督やスタッフと、開催地の原宿・表参道でごみ拾いをする「スイーパーズ」という活動もしたんです。参加者それぞれが表現者として社会に役立つ行動をするべきだと思っているので、自然にそういう取り組みが始まりましたね。

映画祭で、原宿・表参道のごみ拾いを実施(写真提供:Pacific Voice)

ショートフィルムは長編よりも、映像作家の問題意識がはっきり出やすいと思っています。映画祭を24年間続ける間に、環境問題を扱う作品が増えてきた印象です。

例えばインドに世界中の産業廃棄物が集まり、再利用される過程を追った作品では、廃棄物の量にショックを受けました。人類はこんなにたくさんのごみを捨てているのか、と。映画祭では、作品を通して世界で何が起きているのかを知ることができる。また、僕自身も各国の映画人と交流することで、いろいろな気づきを得ています。

映画祭でのつながりをきっかけに、東日本大震災の時、東北の復興を支援するカタールフレンド基金の親善大使に就任しました。支援金の持続可能な使い道は何なのか。カタールの人たちと相談したり被災地を訪れたりして、東北の人たちや専門家の先生と議論しました。国境を越えた助け合いの力を実感しましたね。

他者の目線で世の中を見る

長年、ラジオのナビゲーターの仕事をするなかでも、さまざまなニュースに触れます。給食費が払えず、満足に食事をとることができない子どもたちがいる。ヤングケアラーの問題なども多く耳にします。社会に存在しているのに、いないかのように扱われている「透明人間」がいる。当事者になってみないと気づけないことが世の中にたくさんあると痛感する日々です。

僕自身、子どもが生まれて初めて、外出先でおむつを替える場所が少ないことを知ったり、両親の介護を考えたことで、車椅子の人の気持ちに気づいたり。

わが家では毎年クリスマスの前、児童養護施設などに衣類や日用品を送っています。また、保護犬を飼っているので、動物の命やペットの殺処分も身近な問題です。13歳の娘には、親の行動を見て、自分には何ができるのか考えてみてほしいですね。

保護犬と共に暮らす(写真提供:Pacific Voice)

両親は80代になり、つい先日、遺贈について話したりもしました。遺産を家族だけではなく、社会やコミュニティに寄付するという選択肢がある。子である僕に遺さなくても、両親の関心のあるところに寄付できたらいいと思う。元気なうちから応援したい団体や活動を見つけておけるといいですよね。

僕が子どもの頃はよく、地域の人たちと草むしりをしたり、学校でバザーをしたりしていました。寄付や社会貢献活動は、それと同様に身近なことだと思います。遺贈・寄付についても、気軽に話し合える場があるといいですね。

ボランティアの現場が自分の居場所になったり、新しい友達ができたりもします。楽しさや充足感につながることから、少しずつやってみる。その積み重ねが大切だと思います。

別所哲也(べっしょ・てつや)

1965年静岡県生まれ。90年、日米合作映画でハリウッドデビュー。「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」を主宰し、文化庁長官表彰を受ける。観光庁「VISIT JAPAN大使」などを務める。2023年1〜2月、東京・明治座でミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』に出演