展覧会の図録だけど、読みものとしてもすばらしい
絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』や『からすのパンやさん』の作家、かこさとし。本誌読者のみなさんも、人生のどこかでかこ作品と出会ったのでは。むかし子どもに読み聞かせた人も、自分が小さいときに愛読した人もいるだろう。かこの絵本は、日本の「親子の風景」にふかく浸透している。
そんなかこさとしの世界が展覧会になり、現在、日本各地を巡回中である。この本は展覧会の公式図録でもあるのだが、独立した単行本として非常に読みごたえのあるものに仕上がっている。かこの人生のあゆみと数数の作品、かこワールドのすべてが見渡せる構成だ。
かこの絵本デビュー作は『だむのおじさんたち』(1959)。電力不足が深刻だった当時の状況のなか、水力発電に可能性を見いだす絵本だが、働くお父さんたちのカッコよさをうまく伝えている。この路線はその後『かわ』『海』などの絵本につながり、生きていくためになんとか工夫して自然環境を利用する人間たちの姿を描いた。かこ自身、化学を学んだ人であり、結婚して子どもが生まれたあとに工学博士号を取得している。科学技術と自然とのかかわりを子どもたちに親しみやすく伝え、その知恵をもとに未来の日本を作ってもらおうという技術者魂の持ち主だった。
この本は絵本作品の紹介にたっぷりページをさいている(なにしろたくさんあるので)が、世界各地の遊び文化を知ることで人間の本質にせまろうとした研究の著作も多い。わたしは『しらないふしぎなあそび』という本が、子ども時代のお気に入りだった。2018年、92歳で永眠。「子どもが主役」と考え続けた希有な知性を、今後も忘れないでいたい。
『かこさとしの世界』
監修◎加古総合研究所
平凡社 2000円
監修◎加古総合研究所
平凡社 2000円