『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』著◎ブレイディみかこ

 

子どもは大人が思うより世界を背負って生きている

ブレイディみかこは、いま最も精力的に本を出しつづけているライターのひとりだ。イギリスのブライトン在住、保育士。少々荒っぽい夫(アイルランド出身)と、思春期の息子との3人暮らし。そんな著者が、息子の成長を軸にして、現代イギリスの庶民社会を内側からじっくり観察し、考える。

息子は、小学校までは恵まれた環境にいた。ところがその後、貧困、非行、差別、虐待など問題だらけの「もと底辺校」に進学。悩み、傷つき、考える息子の日々を「母ちゃん」は後ろから見守っている。

ボロボロの制服を買い替えることができない同級生を助けたいが、どうすれば彼のプライドを傷つけないですむか。悪ガキ連中に「チンク」(東洋人をさす蔑称)と呼ばれたら、どう言い返すか。息子はそのつど全力で考えて、自分なりの対処をためす。ときには知恵熱を出しながらもさまざまな問題から逃げず、「移民と英国人」「男と女」「大人と子ども」などの軸に分解して考えようと試みたりもして、万人にとって満点の解決策などないことを知っていく。この成長ぶりがとにかく頼もしくて、読んでいると涙が出る。

イギリスでは「東洋人」とからかわれ、母の故郷福岡に行けば酔っ払いに「YOUは何しに日本へ?」とからまれ、自分はどこにも帰属意識がもてないと言う息子。口先だけのなぐさめを、彼は必要としていない。著者もまた、安易な結論を言わない。そこがいい。

日々の地味な暮らしのなかに、少年の勇気ある大冒険のすべてがつまっている。子どもは大人が思うよりも、世界を背負って生きている。子どもたちについた傷も汚れも、やがて勲章になりますように。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
著◎ブレイディみかこ
新潮社 1350円