「お兄ちゃんに追いつけ」
詩が兄に続いて道場に通い始めたのは、5歳の時。兄の送迎についていくうち「詩もやる」と言い出した。
「娘は3歳からピアノを習っていたので反対したんですけど、小さい時から女の子らしいものは好きじゃなかった。かといって、特段、運動神経が抜群とかではありませんでした。きっと柔道が向いていたんでしょうね。とにかく負けず嫌いで、40キロも体重差のある子に負けても悔しがりました」(浩二さん)
詩が誰よりも尊敬し、目標にしてきたのが兄・一二三だった。
「お兄ちゃんに追いつけ」。その思いを胸に、夙川学院中学へ進学してからはいっそう、柔道に打ち込んだ。どうしたら兄のように勝てるのか、と兄の動画を見て動きを真似る日々が始まる。
中学から詩を指導してきた夙川学院の垣田恵佑さんは、「運動センスのいい子だなと思いましたが、当時はまさか、オリンピックに行くとまでは思いませんでした」と振り返る。技の覚えも早くメキメキ力をつけた。
高校1年生の時、詩は大きな挫折を味わう。インターハイの1回戦。相手に足を掛けたが「河津掛け」という反則にされて敗退。「1週間くらい泣き止まず、練習に来ても道場の隅っこで震えていました。『お前はチワワか』と言ってやりましたよ。でも、彼女は自分で考えて必ず挫折を次につなげる頭の良さを持っていました」(垣田さん)
17年11月には、兄と同じく高2で講道館杯優勝を果たした。
その後、兄を追って、日本体育大学に進学した詩を支えたのは母・愛さん。商店街で喫茶店を経営していたが、ホームシックになった詩のため、店を閉めた。現在は東京で詩と暮らしている。