エッセイ『静夫さんと僕』を上梓したお笑いコンビ・ナイツの塙宣之さん(撮影◎本社・奥西義和)
お正月と言えば「帰省」。夫や妻の親族と顔を合わせる機会も多いのでは。そこで過去に配信した「義理の家族」をテーマとした記事から、あらためて読み直したい編集部が選んだベスト記事を紹介します。

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「ヤホーで調べてみました」でお馴染みのお笑いコンビ・ナイツの塙宣之さん。若くして浅草漫才協会の理事を経て副会長に就任、2018年からは「M-1グランプリ」の審査員もつとめられています。そんな塙さんが、同居しているちょっと変わった舅「静夫さん」との日々を綴ったのが『静夫さんと僕』。数々の奇行で塙さん家族を驚かせ続けてきた静夫さんとの三世代同居は、なぜ上手くいっているのでしょうか?塙さんご自身の生家のエピソードにも遡って、紐解きました。 (構成◎岡宗真由子 撮影◎本社・奥西義和 写真提供◎徳間書店)

最初の2年間はイライラしてました

この三世代同居は僕と妻とで決めて、義理の両親に持ちかけました。義母のやす子さんは二つ返事でOK。静夫さんと2人の生活でなくなることがよっぽど嬉しかったんでしょうね(笑)。提案したら最後、「1日でも早く!」とせっつかれました。一方の静夫さんは「人の世話になりたくない」と言う理由で反対。静夫さんを同居に向けて説得するのには意外と時間がかかりましたね。

同居は7年前からなのですが、最初の2年はイライラすることもありました。「なんで共有スペースにこれを置くんだ」とか「なんで玄関に人が滑って転びそうになるくらい水を撒くんだ」とか。
一番頭に来て本人にも言ったのは、「なぜ洗車したばかりの車に水をかけるんだ!」ということ。水をかけたまま乾くとシミになるんですよ。そりゃ何回か訴えて聞き入れてもらえないとストレスになりましたよ。「俺が全部ローン払っているのに」とか(笑)。でも、他意のない静夫さんに対して何かをやめてとお願いするのは諦めたところから、うまく行き始めたんです。

静夫さんの後ろ姿『静夫さんと僕』(著:塙宣之/徳間書店)より

僕が漫才協会で70過ぎのさまざまなワガママな人たちを見てきた経験が、初めてお会いした時から薄々変人とわかっていた静夫さんとの同居を恐れなかった理由の一つかもしれません。ある年齢を過ぎた方は、人から言われて自分を変えたりすることは難しい。そのことは同居前から感覚的に知っていました。

漫才協会で悟ったこともあります。大人が集まると揉め事が起こるのですが、それを無理にまとめようとするとかえってまとまらない。まとまってなくていいと諦めることが、まとまる秘訣です。

僕は漫才協会とは別に、「劇団スティック」という棒読みを特技とする劇団も率いているのですが、そこにも15人ぐらいの人間がいる。そこでも「あいつがこうだ」などと代表の僕に訴えてくる人がいます。以前は、なんとか取りなさなければいけないと間に立って奮闘したりしてたのですが、今は訴えてきた人にやんわりと諦めるよう諭すことにしました。「あの人があなたのこと、こう思っているらしいよ」と相手に伝えることは、新たに不信感を生むだけのような気がします。