社交の場で手短に話す訓練

久保 でもこれは良くないの。自分の気持ちのまま、自分が面白いと思った順番で話しちゃうんですよ。この場所は聞いてくれる環境があまりにも整っているから、ベラベラと長く話せるけど、朝、犬の散歩で会う人たちに話すには、もっと短くまとめないといけないんだよ。「話を最後まで待って聞いてくれる関係性ではないから」と思って、最近は手短に話す訓練を頑張ってる。

能町 そんなことしてるんだ(笑)。

久保 「鍋を1人前作る」と「手短に話す」。これがいま頑張ってること。

能町 「手短に話してください」と言ったら、そうしてくれるんですか?

久保 それが難しいの。オチを言う前に、犬が……。

能町 犬が?

久保 犬が他に興味を示したり、ワンワン言って入り込んできたら、話題がすぐそっちに行っちゃうわけですよ。だからいつ話が途切れるかわからないし、中断した後で「さっきの話の続きは?」と聞いてくれるわけじゃないから、「ああああ……!」ってなる。こっちが「さっきの話の続きだけど……」みたいに言うのも恥ずかしいし。

能町 それは途中で終わりますね。

久保 でもやっぱり私、話が途中で終わるのが耐えきれないから……。

「2023年12月24日のこじらせライブより」

──それも誠実さですよ。

久保 だから勝手に続けようとするんだけど、もう恥ずかしくて。

能町 終わっちゃったら、りゅうちゃん(愛犬)にしゃべっておけばいいじゃないですか。

久保 そうなの。でも私、案外りゅうちゃんに話さないんだよね。

能町 そうなんですか。意外。

久保 他にもう一人いたら、りゅうちゃんに話しかけてる体になるけど、二人きりだと案外すごい無言になるんですよ。私、語りかけない系だから。りゅうちゃんもあんまり私に語りかけないけど、そのぶん無言のアゴクイが発生するんだよね。

──アゴクイ?

久保 (アゴをクイッ、クイッとさせながら)「メシ、メシ」みたいな。そういうときは「いやいや、早い早い」とか答えてる。あんまり話しかけはしないけど、もう「犬ってわけわかんないな」というのはなくなった。生き物としてだいぶ心が通じ始めてる気がするから、あまり犬っぽく思わなくなってきました。

能町 それはわかります。

──邪魔が入って話が途切れて、相手も途切れたことに気づかずそのまま別の話になるときって、傷ついたりしないですか?

久保 いや、そこはさすが東京の人だなと思うんですけど、みんなそこそこ話を深追いしない訓練がよくできてるんですよ。朝の公園でよくお話しする人がたくさんできて、何度も会って話してるけど、いまだに名前も職業も具体的に聞こうとしない人ばっかりで。

能町 犬の散歩つながりはそういうもんなんですね。

久保 「話を深追いしないプロ」って感じがする。そこで話が気まずくなっても、上手くまとめてくれたり、聞き流してくれたりする。「あ、そうなんだー」みたいな。一方的にベラベラしゃべっちゃうタイプの人も、もちろんいるわけですよ。急に「犬かわいいですねー」って寄ってくる人も。でもそれに対して、みんな上手く受け流すんです、事を荒立てずに。だから私が変に一方的にしゃべってても、「わあ~りゅうちゃんママ、面白~い!」で終わってくれたりして。

──とにかく安全性だけは保たれている。

久保 いまドキドキしてるんです。「ひょっとしたら(大晦日深夜に放送の)正月特番を見られちゃうんじゃないか?」と思って。みんな朝早いから、普段の放送(深夜2~3時が多い)は見てないはずだけど……。

──大晦日は夜更かししやすいですからね。で、「あれ? この人……りゅうちゃんママ!?」って(笑)。

久保 それでちょっとドキドキしてる。すでに「変に話が長い人」というのは伝わってたりするから。

ヒャダ 「ああ、あの話の長い人ね~」って言われてるってことですか?

能町 そんな(笑)。

久保 「りゅうちゃんママは独特だな~」みたいに言われてて。「やっぱりりゅうちゃんママはたとえ方が面白~い」とか。

──エピソードをさらっと受け流すというのは、本人の性格というよりは、東京で生きる人のスキルなんでしょうね。経験値を積み重ねた上での。

久保 東京の人は、話を深くは聞かないけれども、雰囲気を悪くしない感じがする。あと、ちゃんと「面白~い」って感じのノリをシラけずに言ってくれる。いや、都会はやべぇよ。でもその環境に甘えずに、話を短くしようと思ってます。これだけ長く話しておいて言うのもなんですが。

「2023年12月24日のこじらせライブより」