「自分に優しくしてもいいよ」という私自身の声が
そんな幸子さんが唯一、罪の意識から解放されたのは数年前、脳腫瘍が見つかり、手術で長期入院をした時だった。それまで手伝い程度の家事しかしなかった夫が、息子たちの食事の支度をはじめ家のことを一手に担ってくれた。毎日洗濯した衣類を届けに来てくれる夫の姿に、心が溶けていくのがわかった。
「『こんな時こそ甘えよう。自分に優しくしてもいいよ』という私自身の声が聞こえた気がして。それまでは夫の家事の仕方につい口を出していたけれど、もういいやと。全部任せてみると、自分も楽になったんです。家を見守る目が自分以外に2つ増えて、『なんだ、4つの目で見ればいいんだ』って思えました」
退院後も夫は以前より家事を引き受けるようになり、例えば「油は台所のここに置く」といった、幸子さんだけが把握していた細かなルールなども、夫婦で共有するようになったという。また今年は、ずっとためらっていたあるものに手を出した。
「朝ドラを見て、初めてチキンラーメンを食べてみたんです。本当に便利で、しかもけっこうおいしいんですね。驚きました(笑)」
幸子さんの丁寧な暮らしでなければという「呪い」は、すぐには解けそうにない。でも少しずつ、楽をするのも悪くないと思える機会が増えるかもしれない。