「自分に優しくしてもいいよ」という私自身の声が

そんな幸子さんが唯一、罪の意識から解放されたのは数年前、脳腫瘍が見つかり、手術で長期入院をした時だった。それまで手伝い程度の家事しかしなかった夫が、息子たちの食事の支度をはじめ家のことを一手に担ってくれた。毎日洗濯した衣類を届けに来てくれる夫の姿に、心が溶けていくのがわかった。

「『こんな時こそ甘えよう。自分に優しくしてもいいよ』という私自身の声が聞こえた気がして。それまでは夫の家事の仕方につい口を出していたけれど、もういいやと。全部任せてみると、自分も楽になったんです。家を見守る目が自分以外に2つ増えて、『なんだ、4つの目で見ればいいんだ』って思えました」

退院後も夫は以前より家事を引き受けるようになり、例えば「油は台所のここに置く」といった、幸子さんだけが把握していた細かなルールなども、夫婦で共有するようになったという。また今年は、ずっとためらっていたあるものに手を出した。

「朝ドラを見て、初めてチキンラーメンを食べてみたんです。本当に便利で、しかもけっこうおいしいんですね。驚きました(笑)」

幸子さんの丁寧な暮らしでなければという「呪い」は、すぐには解けそうにない。でも少しずつ、楽をするのも悪くないと思える機会が増えるかもしれない。

 


ルポ・ラクすることに罪悪感がつきまとうのはなぜ?
【1】弁当に冷凍食品はNG! 丁寧に暮らすという「呪い」に縛られて
【2】「最近、宅配が多いね」。夫の言葉で責められたような気持ちに
【3】夫に家事を教えて10年。60代女性が手に入れた「しない日」