『NO』という言葉は私の辞書にはなかった

ところが当日も、自分の仕事を処理しきれず、「あたし、今日無理だから!」と電話で捨て台詞を吐いてドタキャンしてしまったのだ。

翌朝、気まずい思いで出社した牧田さんに、同僚は「いろいろ無理させちゃったよね。ゴメン」と、なんと自分から謝ってきたという。

「『私こそゴメン』と謝るべきなのはわかっているのに、迷惑をかけた相手に先に謝られてしまい、逃げ場を失ったというか……。また焦って、つい『ほんとよ。あんなこと無理なんだから、二度と声をかけないで!』なんて言っちゃったんです」

互いに口をきかないまま数日が過ぎたが、先に声をかけてきたのはまたも同僚だった。事前に決まっていた、飲み会の席でのこと。

「ねえ、イヤなことは、きっぱり断ればいいんじゃない?」

そのひと言に、牧田さんは仰天する。「『NO』という言葉は私の辞書にはなかったから。断って相手に愛想を尽かされるのが怖い。自分をよく見せたい。だからずっと、なんでも引き受けてきたのです」

思わず同僚に「でも、嫌われるのが怖くて」と打ち明けていた。そんな彼女に同僚は言う。「断られただけでその人を嫌いになるなんて、滅多にないから大丈夫」。

すぐに頷くことはできなかったが、心の中が少し楽になった。その後、2人は仲直り。職場で彼女が仕事を安請け合いしようとすると、隣の席から同僚の厳しい視線が飛ぶそうだ。「すごく怖いんですよ」と言いつつも、牧田さんは笑顔だった。

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人とのつきあい方は千差万別だが、うまくあしらえなければ、ツケは自分に回ってくるし、誰しも、全員にいい顔はできない。人の顔色をうかがうよりも、「嫌われたって大したことない」と腹をくくったほうが、確実に生きやすくなるだろう。
 


ルポ・イヤと言えずにこんなことに…

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