やっと追いつく日本

「グランドデザインがなければ、半導体産業復活の取り組みは長続きしない。各省縦割りではなく、全体を見てバランスのとれた計画を作る役割が首相官邸に求められている」=真壁氏

「日本の産業界として、性能の高い半導体を作り続けることに取り組まなければならない。基礎研究を担う大学は予算不足で疲弊しており、そこから立て直す必要がある」=加谷氏

伊藤政府は今回、半導体産業の支援のために4兆円規模の補助金を用意しました。TSMCは、熊本県に第2工場も建設します。北海道では、先端半導体の国産化を目指すラピダスの工場が建設中です。こうしたプロジェクトに補助金が投じられます。

政府の支援には批判的な意見もあります。当然、その効果の検証は必要ですが、吉田さんの言われた通り、半導体が手に入らなければ、経済全体が立ち行かなくなります。民間任せにせず、政府が関わることは、おかしいことではありません。世界で半導体の「囲い込み」が始まっており、日本は米国、欧州、台湾と協力しなければなりません。民間への介入ではなく、民間との連携であると、発想を切り替えることが大切ではないでしょうか。

そのためには、ゲストのお二人が指摘されたように、半導体の国家戦略をよく練る必要があると思います。日本は自然災害が多いので、国内で工場を分散させる必要があります。工場に必要な電力を確保する上でポイントになる原発ですが、稼働中の原発は西日本に偏っています。街が変わっていく混乱や不安についても、丁寧な対応が求められます。政府として関与していく以上、ただ急ぐだけではなく、一体的な取り組みが不可欠です。

吉田同感です。政府が民間の半導体企業に補助金を出すことは、中国を含めて、すでに他の国々では行われており、国際社会のトレンドになっています。実は日本は後れをとっており、ようやく追いつこうとしています。日本はかつて、「日の丸半導体」の復活を目指してエルピーダメモリを設立しましたが、12年に経営破綻してしまいます。このため、今回の取り組みを批判的に見る向きもあります。しかし、半導体を取り巻く環境は、当時とは異なっています。過去の苦い経験を踏まえながら、仕切り直しをして、前に進むべきではないでしょうか。

政府は、半導体の売上高を20年の5兆円から30年に15兆円まで引き上げる目標を掲げています。そのためには、次世代を支える人材の育成が欠かせません。現在、国内で作ることのできる半導体は回路線幅40ナノメートル程度(ナノは10億分の1)です。TSMCの第2工場では6ナノメートル、ラピダスでは2ナノメートルの半導体を作ることを目指してり、非常に高度な技術が必要になります。基礎研究を含めた、大学や高等専門学校の役割は高まります。産業を支える土台から、戦略的に立て直す必要があります。人材の育成は産業の裾野を広げて、他の産業にも波及していきます。伊藤さんの指摘された原発も稼働しなければ、次世代の人材は育てられません。科学技術教育の予算確保と、技術者の待遇改善も忘れてはならないと思います。

”周回遅れ”日本の半導体産業巻き返しは©️日本テレビ
解説者のプロフィール

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞