概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

熊本県で2月、半導体の受託生産で知られる台湾のTSMCの工場が開所した。北海道では、先端半導体の国産化を目指すラピダスの工場建設が進んでいる。半導体は経済安全保障に直結しており、生産基盤を強化する国家戦略が問われている。多摩大特別招聘教授の真壁昭夫氏、経済評論家の加谷珪一氏を迎えた3月7日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

半導体戦略官民で連携

工場誘致のにぎわい

「日本には、半導体関連の部品や部材を作る技術力の高い企業がたくさん存在する。国内に半導体を作る工場が新しくできると、産業の裾野が広がり活性化される」=真壁氏

「グローバルな優良企業を受け入れる体制を、日本はきちんと整備する必要がある。彼らの富をうまく利用して、低い日本の賃金を上げる機会にしなければならない」=加谷氏

伊藤番組では、TSMC(台湾積体電路製造)の工場ができた熊本県菊陽町を現地取材しました。TSMCは半導体の受託生産で世界最大手です。熊本のTSMCの大卒初任給は、全国平均より5万円以上高いといいます。飲食店やホテル、タクシー会社に話を聞くと、台湾からの利用を含めて活況を呈していました。不動産の価格は上昇しており、JRの新駅建設や新たな住宅地開発も進んでいます。

好景気 熊本の小さな街で”半導体バブル”©️日本テレビ

真壁さんは番組で、半導体の工場には、電力、水、ヒトの三つが欠かせないと指摘されました。半導体を作るには、大量の電力を必要とします。九州は原子力発電所が稼働しており、他の地域に比べると、電力を安価に安定して調達することができます。さらに地下水も豊富な熊本は、工場の立地条件に恵まれていると言えます。

一方で、急激な変化に対して戸惑う声が聞かれました。農家が地価の上昇で農地を借りられなくなったり、農作物の栽培に必要な水の出が悪くなったりしているといいます。通勤時間帯は道路が渋滞したり、最寄りの無人駅は混雑したりしています。産業政策は経済産業省の担当ですが、農林水産省、国土交通省などを含めて、事前に政府全体で調整しておくべきでした。

困惑”半導体バブルの影”地価高騰・離農者も…©️日本テレビ

吉田日本の半導体産業は1980年代、「日の丸半導体」と呼ばれて世界を席巻しましたが、その後の経済低迷で日本は投資に慎重になり、台湾や韓国に先を越されてしまいます。日本は半導体の国家戦略を持たないままでしたが、2021年に民間企業の半導体工場に大規模な補助金を投じることを可能にする法律を成立させました。大きな転換点を迎えています。

半導体は「産業のコメ」と言われます。AI(人工知能)や車の自動運転には、性能の高い半導体が必要になります。そうした半導体を作ることのできる企業は限られており、TSMCはその一つです。半導体の需要と重要性は高まっており、安定して調達することが求められています。コロナ禍の混乱では、世界的な半導体不足が起きました。今後の米中対立や地政学リスクにも備えなければなりません。半導体の生産拠点は、台湾などに集中しています。そこで日本は、半導体を作る工場を国内に整備して確保することにしました。米国は、中国に先端半導体の技術が渡ることも懸念しており、日本は輸出規制に協力しています。半導体産業を支えることは、経済のみならず安全保障においても重要であり、日本の社会の安定に寄与します。