スタジオには膨大な紙が舞う
11時半の放送開始に備えて、11時のスタジオの様子。
挨拶もそこそこに現場(スタジオ)では、エネルギッシュな格闘がスタートしていた。私のパートナーとなってくれる、アナウンサーの鈴木愛実さんも本番を控えて、ひたすら独り言で練習中。番組の件で、ずっと私と打ち合わせをしてきてくれたプロデューサーさんも、サブコンにこもっている。東京からゲストが来ようとも相手をしている暇はない。雑然としている様子は、各局どこも変わらない。
スタジオ中を忙しそうにバタバタと走っているのが、アシスタントさん。
「小林さん、このドラマ、いけますか?」
フロア内のテーブルに座る私のところまで、プロデューサーのチェックを終えた大量の用紙を持ってくる。それは当日の放送テーマ「あなたの最愛ドラマを教えてください」に沿った、リスナーさんからのメッセージ。この日は1ヶ月間のドラマ特集の最終日ということなのか、いつもよりメッセージ数が多かったらしい。
「これとこれなら、ドラマについて深堀りにして話せます」
「ありがとうございます! こちらは?」
「色々ネタ満載のメッセージだから、こちらはいかがでしょう?」
「了解しました!」
アシスタントさんは赤ペンで「この後、本当に読めるんだろうか」という文字で、メモを取りながらまたサブコンに走る。何をするのかと後ろからついていくと、今度はパソコンに座ってX(旧Twitter)にポストが始めていた。リスナーさんの書き込みをチェックして、必要そうなものをまた出力、スタジオ内で共有。当日の放送内容についても随時書き込んでいく。見ているだけで、三半規管がおかしくなりそうな行動を彼女は軽やかに動いていた。
私が学生時代のラジオを言えば、ラジオの投稿はすべてハガキだった。中には毎週読まれるような、ハガキ職人と呼ばれるリスナーもいた。要は番組スタート前に、台本も読むコメントも決定していて、スタンバイは完璧。それが現代のラジオ放送は、リアルタイム重視になった。パーソナリティーもスマホでXをチェックしつつ、不明点があればすぐ検索。聴く側と共に山脈を登って行くようなハードな世界になっていた。
ただそんなことは言っていられない。こういった変換こそ、杵柄を買い替えて、時代にマッチングしていくのだ。
さて私。3時間半、出ずっぱりではなく、コーナーの合間をくぐり抜けながら生出演。そして調子良く話して、ブースを出て、また待機。この繰り返しだった。その度に
「小林さん、お願いします!」
と、出力紙を抱えて、迎えにきてくれるアシスタントさん。なんだか申し訳なく、インカムでも渡してくれれば一人で行くのにと思いながら、また出演。そんな慌ただしい一日だった。本心かどうかはいざ知らず(?)、リスナーさんから「また出てください!」「コーナーを作りましょう!」と熱烈ラブコールもいただいて、番組は終わった。
でも当日の放送は非常に楽しかった。放送中、全く途切れることのないメッセージの量に驚いた。どうやら楽しそうなドラマ大好きおばさんには、大きな需要があったらしい。会ったことのないリスナーさんに「小林さん!」「久乃さん!」とメッセージで呼ばれるたびに、胸は高鳴る。選挙活動中の候補者が汗をかきながら、市民と握手を続ける気持ちが今ならよく分かる。ありがとう、ありがとう。
当日は生放送だけではなく、ポッドキャストの収録もあった。加えてS N S用の写真撮影もお決まりコンテンツだ。さらにこの10年間前後のラジオ事情になると思うけれど、スタジオにいる間、出演者は終始、S N Sのアップ専用にスマホで撮影されている。気も抜けないし、すっぴんでも行けない。話すだけの仕事だと思っていたら、そうは問屋が卸さない。そして日々、ヘアメイクもつかずにこの業務をこなすアナウンサーさんは、さすがの一言。