守備面でブロックとレシーブは切っても切れない関係にある。あえてブロックの隙間を抜かせるコースにレシーバーを配置し、着実にボールをつなぐ。高さで劣る日本代表はブロックを弱点としてきたが、ブロックとレシーブの連携を磨いたことによって、世界でメダル争いができるまでに成長した(写真提供◎Newspix.pl/アフロ)

世界の戦術や考え方を日本に浸透させた

とはいえ、優れた選手たちが集まるのは今の代表に限らない。「個」の力に加えて必要なのは、守るべき人が守って、つなぐ人は着実につなぎ、点を獲る人が点を獲ること。なぜ、現在のチームはこれ以上ない形で機能しているのか。そのカギを握るのが知将フィリップ・ブラン監督の存在だ。

ブラン監督はフランス出身。現役引退後は母国やポーランド代表の指揮を執り、世界の頂点に立った経験も持つ。東京五輪に向けて、中垣内祐一(なかがいち・ゆういち)を監督に据えて発足した日本代表の下、ブラン氏はコーチに就任。

ブロックとレシーバーが連動した、日本チームに適したディフェンスシステムを作りあげてきた。その手腕は中垣内前監督が「(ブラン氏は)ディフェンスのシステムを教えるのが非常に優れている」と称賛するほど。

かつては1996年のアトランタからアテネまでの3大会、さらにその後もロンドン、リオデジャネイロと五輪出場を逃してきた日本代表。その間もスピードを追求するなど、独自のバレーを極めてきたが、世界の進化には及ばず、長きにわたり後塵を拝してきた歴史がある。

ブラン監督は21年の東京五輪後に監督へ就任すると、「日本はこう戦うべき」という常識を覆した。サーブで的確に相手のウィークポイントを攻める。崩したらブロックとレシーブを連携させた守備から、関田の正確なトスへつなぎ、石川、高橋といった攻撃陣が勝負する。いわば世界では当たり前の考え方を日本にも浸透させた。一つ一つの攻撃・守備への狙いが明確で、選手たちも納得してプレーができているという。

日本人とは異なる発想で、基本の戦術は徹底しながらも、積極的なチャレンジを推奨する。その結果、選手たちは挑戦を恐れなくなった。強いサーブを打ったかと思えば、次は前にポトリと落とすショートサーブ。時に足でボールをつないだり、後衛から攻撃すると見せかけ、ジャンプしながらほかの選手にトスを上げる《フェイクセット》をするなど、遊び心もある。

「見ていて楽しい」日本の男子バレーは世界を魅了するようになった。ブラン監督の指導が個性豊かな日本代表チームにもピタリとハマったのだ。

日本の男子は勝てない、という常識を今や覆し、目標は「五輪出場」ではなく「五輪でのメダル獲得」という、より高みへ向いている。

9月30日から始まるワールドカップでは、ぜひ《推し》選手を見つけて、男子バレーのゲームを楽しんでほしい。