「自由業ってうらやましいよ」
学歴や職業を鼻にかけるような人たちではないのだが、採用されるあてのない絵を描いてはネットに載せているわが身と比べると、大きな格差を感じてしまうという。
「エステがどうの、車がどうのという話が一通り終わると、従兄がふと思い出したように『サエちゃんは絵を描いてるんだよね』『自由業ってうらやましいよ』『個展とかやらないの』と私に話を振ってくるんです。気を使ってくれているのはわかるけど、放っておいてって感じ」
そこから話題はニューヨークの人気イラストレーターやピカソやマティスの絵にまで飛んでいく。
「他意はないんだろうけど、どことなく上から目線で、勘弁してほしい。そこに母が『サエコなんてとてもとても。食べるのがやっとよね』って割って入ってくるから、余計にいたたまれなくなるんです」
帰り道、母が「伯父さんの家はほんとご安泰ねえ」とつぶやき、「一人娘が頼りなくて、結婚もしなくてすみませんねえ」とお決まりの嫌みで返す。「年金だけじゃほんと大変なのよ」と愚痴を言う母を家まで送ってから、自宅マンションにたどり着いてほっと一息。これが例年の行事だとサエコさんは言う。
「伯父も父も自分の甲斐性で道を切り開いてきた人たちだし、私は従兄妹たちと条件も環境も同じだったはずなのに、この差は何? と思ってしまいます」
今に見ていろ! とは思うものの、収入の安定しないフリーランスの身の上が身に染みるサエコさんだ。