少女たちの希望となったクリエイター

昭和初期の雑誌『少女の友』で挿絵や表紙の専属画家としてデビューした中原淳一(1913-83)。彼の描く大きな瞳と細長い手足という少女像は、当時の少女たちの理想となり人気を博しました。
その後、雑誌編集にも深くかかわり、少女雑誌の創刊を数多く手がけ、『それいゆ』『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』などを刊行。女性たちの圧倒的な支持を集めたといいます。
雑誌編集のほかにも、イラストレーション、ファッションデザイン、インテリアデザインなど、マルチクリエイターと呼ぶべき多彩な活動を繰り広げ、後世のクリエイターに多大な影響を与えました。

本展は彼の生誕111年を記念し、雑誌に掲載された挿絵や表紙の原画、デザインした衣服、絵画、人形など、彼が手がけた仕事を一挙に展示。
「再び人々が夢と希望を持って、美しい暮らしを志せる本をつくりたい」という想いのもと生み出されたこれらの作品の数々を通して、今もなお色褪せることのない魅力に迫ります。

中原淳一 《表紙原画(『それいゆ』第39号)》 1956年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA

少女たちの熱狂を生んだ雑誌の数々

中原淳一は、1932年に『少女の友』の専属画家としてデビューすると、挿絵や表紙で少女のイラストを担当しました。彼の描く大きな瞳と細長い手足という西洋的な新しい少女像は、まさに現代のアイドルのように、当時の少女たちのあいだで熱狂的に支持されたそうです。そのエッセンスは、後の少女漫画にも大きな影響を与えています。

しかし、日中戦争の長期化にともない戦時色が強まると、好ましい少女のイメージが一転。彼の描く少女像は「華美で不健康」とされ、非難の対象に。40年には『少女の友』を去ることになりました。

中原淳一 《『少女の友』第33巻第12号》 1940年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
中原淳一《「ファッションブック」(『少女の友』第30巻第8号付録》1937年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA

終戦翌年である46年、33歳で『ソレイユ』(8月号以降『それいゆ』と改名)を創刊。オリジナルの洋服デザインの連載や、髪型、美容、インテリア、手芸など、通常の暮らしすらも困難であった当時の衣食住を「美しく」整えるための記事や、文学、音楽、美術など、内面を磨くための記事が多数掲載されました。

『ソレイユ』刊行の翌年に創刊した月刊誌『ひまわり』では、最新ファッションを紹介しながら、着こなしやヘアスタイル、小物選びなどを、絵と文章で丁寧に解説し、読者である少女たちの心を掴みました。
そしてファッションだけでなく、川端康成らによる小説や名作文学などの読み物も多く掲載されたことから、彼が少女たちの「美しさ」のためには文学や教養も重要だと考えていたことがわかります。

戦後復興から高度経済成長期という、流行が目まぐるしく変化する社会のなかで、彼は流行を追いかけるだけではなく、読者自身が衣食住を知性によってコントロールしてはじめて自分らしい「美しい暮らし」が実現できる、という強い信念を持っていたそうです。

中原淳一 《表紙原画(『それいゆ』第31号》 1954年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
中原淳一 《表紙原画(『ジュニアそれいゆ』第24号)》 1958年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
中原淳一 《冬のお部屋の工夫をしましょう(『ジュニアそれいゆ』第7号原画)》 1956年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA

マルチクリエイターの原点

本展では、そんな彼の原点である人形作りについても触れています。
20年代後半、都市部に住む中間層の女性の間での流行に触発され始めた人形作り。19歳で制作したフランス人形はまたたく間に評判となり、人形展も開催されました。
彼にとって人形は、作り手の自己や憧れを映し出す媒体として、また愛情を注ぐ対象として、さらには空間を美しく飾るオブジェとして、生活のなかでさまざまな役割を担う特別なものだったようです。

中原淳一 《三人のスリ》 1962年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA

戦争によって少女時代を奪われた女性たちのため、「よき女性の人生は、よき少女時代を送った人に与えられるのではないか」と情熱をもって作られた雑誌は、新しい時代の少女たちに夢を与えました。
今もなお人々に勇気を与え続ける中原淳一の作品の数々を、本展でぜひご覧ください。


【応募締め切り日】7月28日(日)
※当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます(7月30日頃予定)
 

■開催概要
111年目の中原淳一
会期:2024年6月29日(土)~9月1日(日) ※会期中、一部展示替えあり
前期:6月29日(土)~8月4日(日) 後期:8月6日(火)~9月1日(日)
開館時間:10時~18時(毎週金曜日は20時まで) *入館は閉館時間の30分前まで
休館日:月曜日(7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)
会場:渋谷区松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14)
   京王井の頭線 神泉駅から徒歩5分
   JR・東京メトロ・東急電鉄 渋谷駅から徒歩15分
入館料:一般1,000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小中学生100円
    *団体10名以上および渋谷区民は2割引
    *毎週金曜日は渋谷区民無料
    *土・日曜日・祝休日および夏休み期間は小中学生無料
    *障がい者および付添の方1名は無料

主催:渋谷区松濤美術館、朝日新聞社
協力・監修:ひまわりや
企画協力:島根県立石見美術館

●公式HP:https://shoto-museum.jp/exhibitions/204nakahara/
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