金よりも徳を積む

友人は老後の心配をして日々稼いだ金を積み立てていくのなら、徳を積んだほうがいいのでは? と話し出した。おばさん二人で真剣に話しているが、中身はない。

「例えば投資に手を出したとして、大災害が起きたらどうなるのか分からないし、投資したお金が手元にくる絶対的な保証はないでしょ。それに有事に必要なのは、現金でもなく、助け合いなんですよ。それなら近所の人に優しくするとか、一日一善を重ねていくとか。徳を積んだほうが将来的にいいんじゃないのかしら」

「そのほうが最終的に回り回って、自分のところに現金ではなく、徳が返ってくるかもしれないよなあ」
「地震が起きた直後に『積立NISA』の書類を持ち歩いても価値はないけれど、近所の人との相互協力に巡り合うほうがよっぽどいいと思う」

おばさん二人の会話はヒートアップしていく一方である。プロの投資家が聞いていたら、笑いが止まらないだろう。

「そのための徳積みかあ。そういえば、あの大谷くんもその辺に落ちているゴミを拾うんだって。人が捨てた運を拾っているんだそうよ」
「そうよ。そうなったら、私たち、毎日徳を積もうよ。『積立NISA』じゃなくて『積立NEESAN(姐さん)』でどう?」
「いいねえ、さっそく今日から始めるわ」

(写真はイメージ。写真提供:photoAC)

将来を危惧した投資制度のことを話していたつもりが、いつの間にか善行に会話がすり替わっていた。これがおばさんトークの流儀である。私も『積立NEESAN』にすっかり感化され、脳内から『積立NISA』が消えていた。