このドラマは昔の話だけど昔の話じゃない
戦後、憲法改正案が公布されたことを新聞で知った寅子は、河原でひとり涙を流す。物語冒頭につながるこのシーンに、多くの視聴者が感銘を受けた。
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
憲法第14条より抜粋。
――寅子がいろいろな経験を重ねる中で、法律に対する捉え方が変化していく様も描かれています。日本国憲法公布のくだりもありましたが、令和の現代において、法律によって守られる人権はジェンダー問わず平等であると思われますか。
尾崎:まさに日本国憲法にもあるように、法律上は誰しもが平等になった。現代はそのあとの世界のはずで、法律は変わっているはずなんだけど、本質的なところが変わっていないように感じます。だからこそこのドラマがあって、皆さんから大きな反響をいただいているように思うんです。
女性のほうが不利だったり、女性のほうが我慢を強いられていたりするタイミングが、私たちが生きている現実世界でもある。なので、このドラマは昔の話なんだけど昔の話じゃない。そんな感覚が、脚本家の吉田さんをはじめとして、私たちの中にはあります。
石澤:最近話していて気づいたのですが、男性である尾崎さんのほうが、女性である自分より女性目線の配慮をするんです。尾崎さんは、「こういうふうに考える女性もいるんじゃないか」と言う。私は、「こういうふうに描くと男性に対してすごく失礼な表現だと思う」と言う。そこが私たちの場合はクロスしていて、「わからない同士」だとこういうことも起こるんだと思いました。
私が新卒でNHKに入社したのは16年前で、いわゆる「男性社会の中に入れてもらってきた女性」だと自覚しています。ロケ先の食事メニューひとつ選ぶにしても、年配男性が好みそうなものにしたり……この16年の間に、合わせるのが当たり前になっていたんですね。かつ、それをうまくやってこれたから今もここにいるんだと考えると、私は女性全体の中でも、「男性優位のカルチャーに合わせられる側の人間」なんだな、と。それが良いとか悪いとかは別として、習慣の中で身についたものがあるんだということを、尾崎さんと話す中で発見したんです。
尾崎さんは、これまでいろんな番組をつくる中で、女性やマイノリティについて一生懸命考えてこられた。だから、「この表現はどうなんだろう」と思い至るわけです。そんな尾崎さんの考えと自分の感覚がクロスした時、“女性だから女性の意見を代表できる”というのは、ちょっと違うような気がしたんですよね。
――たしかにドラマ内でも、いろいろな女性が登場しますよね。法律を学ぶために朝鮮半島から留学してきた「崔香淑(さい・こうしゅく)」、貧困家庭に生まれた「よね」、結婚して家庭に入った寅子の幼馴染の「花江」。花江が、法曹界で学ぶ寅子たちの様子を見て「自分はここには入れない」と泣き出すシーンも心に残りました。
石澤:本作のモデルである三淵嘉子さんが、行動力、経歴ともにすごい方なので、それを見て「私はこんな人にはなれない」と感じて寂しい思いをする人がいるだろうなという懸念が、制作当初からありました。女性の権利を描くにあたり、「働く女性らしさ」だけに重点を置くのも違うと思っていて。時代背景を鑑みても、花江ちゃんのような選択をした人に、それはそれで素晴らしいことなんだと思ってもらいたい。その点は、脚本家の吉田さんともずっと話してきたことでした。