ちなみに村中さんの実家の墓があるのは、道東の釧路。お墓に関しては、父が生前から村中さんに「墓に関していっさい口を出すな。長男に任せる」と何度も言っていたとか。兄はすでに亡くなっているが、兄には息子もいるので、墓のことはすべて任せっぱなしにしている。
「家を守るとかお墓を守るといっても、男の人の家系だけのことでしょう。男女同権の時代に、夫の家系のお墓だけ守って、自分の生まれた家のお墓はほったらかしというのも理屈に合わない。かといって、この少子化の中で、夫と妻、両方の家のお墓を維持するのは、非現実的だと思います。
墓地に行って、誰も守る人がいなくなったお墓が荒れたままになり、石が割れてひっくり返っていたりしているのを見ると、なんだか虚しいですし。
個人でお墓を持とうとは思わず、大きな共同墓をつくり、そこにどんどん遺骨を入れていけばいいのに。人間の骨も、いずれ土に還るのが当たり前だと思うんですよね」
村中さんの夫は、札幌市の中心地にある市営霊園の合祀墓に入れてほしいと言っていた。しかし、実はまだ、遺骨はそのまま家に置いてあるという。
「夫は、どうしてもそこに行きたいわけではなかったんです。要するに、墓は持たない。もっと言えば、象徴になる場所は持ちたくない、ということです。だから海でも共同墓地でも、どこでもいいって。私もそのつもりでした」