ところが、40代の娘たちがその選択に待ったをかけてきた。やはり墓があったほうがいいのかと思って聞いてみると、どうやらそうでもないらしい。
「2人ともお墓には興味がない様子。私と夫が別々の場所に埋葬されるのが嫌だと言われました。たしかに夫が霊園、私が海となったら、娘たちも面倒くさいんでしょうね。『お父さんだけどこかに行っちゃうのは寂しいから、お母さんが死んだら、2人分一緒にどこかに入ってくれるのがいいかな』などと言っています」
まだしっかり話し合ってはいないが、いずれ娘たちと話す日が来るかもしれない、と村中さん。
「実は夫とお墓のことを話し合うなかで、私は『湘南の海に散骨してもらうのもいいかなぁ』なんて話していたんです。若い頃しばらく関東に住んでいたことがあり、湘南の海で遊んで楽しかった思い出があるので。
でも夫は金づちで泳げないので、海に流すのはかわいそう(笑)。だから私も、娘たちには海に散骨してほしいと言えずにいます。そんなわけで、夫の遺骨を市営霊園の合祀墓に入れるのは、ひとまず保留にしました」
自分が死んだ時は、僧侶を呼んでの葬儀もしなくていいと言う村中さん。「娘たちは、私たち夫婦の遺骨をバルーンにでも乗せて、空で爆発させてパーッと飛び散ったら爽快だろうなぁなんて思っているんじゃないかしら。それもいいかもしれないわね」と、楽しそうに笑った。
【ルポ】土地のしがらみ、子の抵抗…苦労しながら私たちが改葬するまで
●何十年も《嫁》として 守ってきたが――真澄さんの場合
●夫の遺骨を合祀墓に
入れようとしたら――理沙子さんの場合
●お寺ときちんと
話し合うのが大事――紀子さんの場合