たまたま内見した予算オーバーの物件

「とにかく入ったとたん、明るくて、驚いて。いっぺんに気に入りました。予算オーバーだったんですが、使っちゃえ~って思って」と、淑恵さんは笑います。原資は、離婚した夫から財産分与で手にしたお金でした。

淑恵さんが引っ越し先の中古マンションを探し始めたのは、家出して離婚調停をしていた時でした。予算は500万円。仕事休みの毎週末、市内まで物件を内見に来ていました。もともと、淑恵さんが夫と住んでいた地域は県内でも農村部です。県庁所在地のほうが仕事もあるから出てきたらと、弁護士からも誘われていました。離婚後に働くための国家資格を取ろうと、市内の専門学校への入学を決め、在学中の生活費もバイト代などで貯めていました。

この部屋を見に来る前に調停が成立。ある日、代理人弁護士から、「口座に財産分与のお金が振り込まれます」と連絡がありました。口座を見てびっくり。なんと1000万円、振り込まれていました。「こんなに!って驚きました」。婚姻期間は約20年。子どもはおらず、離婚原因は夫の浮気、有責配偶者は夫です。片働き夫からの財産分与としては妥当な額かもしれません。

この日はたまたま、内見予定だった別の物件が、大家の都合で見られなくなりました。不動産屋に、「せっかく来たんだから、予算オーバーですけど、ついでに見ますか」と、案内してもらったのが、購入した部屋でした。

他の部屋はファミリータイプですが、内見した部屋だけが独り暮らし向き。全16戸と小さなマンションです。売主は県外在住で、セカンドハウスとして使っていたらしく、家具付き販売でした。照明やソファ、机など家具もおしゃれ。200万円予算オーバーの700万円でしたが、即決。購入して、ここに引っ越してきました。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)の書影
『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

マンションは、淑恵さんの前のオーナーのように、外に住むオーナーが3分の1くらいいます。でも管理費や修繕積立金の滞納や未納はありません。やりたがらない人も多いマンションの管理組合の理事を、淑恵さんはあえて引き受けました。「放置すると資産価値が下がりますよ」と外オーナーも説得し、修繕積立金の不足分として1戸あたり約50万円の特別徴収を実施。エレベーターの取り替えを含む大規模修繕を15年ほど前に済ませました。

先日はマンション内の物件が1500万円で売られていました。淑恵さんの部屋も、購入時よりも高く売れそうです。民泊も禁止にしたし、維持管理も良好です。資産価値を保てていて、ひとまず安心です。

「専門学校時代は、子どもくらいの年齢の同級生たちもよく泊まりに来たんですよ」。その後、淑恵さんの親族が大学に通う時に1部屋を貸してあげたことも。とにかく便利な立地なので、どこに行くのも楽です。「ほんとうに、このマンションがあって良かったです」。良い買い物をしたと、我ながら大満足しています。