「こうなったら、すごいドラマを作ってやるぞ!」
桐野 2年前に上梓した『燕は戻ってこない』をドラマ化してくださることになって、板垣さんとは5回ほどお会いしていますね。
板垣 私は桐野さんの作品が好きでよく読んできましたので、『燕は戻ってこない』は絶対いいドラマにしたい、と思いました。
桐野 打ち合わせをするなかで、『燕は戻ってこない』に取り組む気持ちを「復讐心です」とおっしゃったことがありましたね。とても印象的でした。
板垣 そんな話をしましたね(笑)。私はドラマを作る際、プロとして「いい作品にしよう」というモチベーションを第一にしていますが、それとは別に、個人的なモチベーションも持つようにしていて。
小さいことで言えば、「今日頑張ったら、おいしいビール飲むぞ」とか「この撮影が終わったら、あの靴を買おう」とか。『燕は戻ってこない』に関しては、それが復讐心でした。
桐野 最近、ある新聞記者の方と話していたら、「映像の世界では、監督が女性だと、照明さんや音声さんが言うことをきかないということがまだある」と聞きました。
文芸もひとつの社会ですから、なんらかの差別やハラスメントはあります。なので、ふと板垣さんの口にした「復讐心」という言葉を思い出したんですよね。
板垣 20代の頃は女性というだけでからかわれることもありましたが、年齢とともに立場も変わって、そういうこととは無縁になったと思っていました。男性と遜色なく働いてきたという自負もありましたし。
でも『燕は戻ってこない』の企画を会議に出して通ったあと、男性の先輩が「あいつはフェミニストだから」と言っているのをたまたま聞いてしまって。
桐野 それは腹が立ちます。
板垣 最初、私はものすごくショックを受けたんです。そう見られていたんだ、と思って。ジェンダーに関係なく働いてきたつもりだったけど、周りの目はそうじゃなかったんだと悲しくなりました。
桐野 その気持ちはよくわかります。自分の書きたいものを書いてきただけなのに、私も「女性作家枠」とか「フェミニスト枠」とか、なにかしらの枠に勝手に入れられるのが常でした。作品ではなく、私個人がラベリングされる。これはとても腹立たしいことですよ。