概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

ロシアは5月、戦術核兵器の演習を開始した。ウクライナと、ウクライナを支援する欧米諸国を牽制する狙いがあると見られる。核による恫喝を再び強めるロシアに対して、どのように立ち向かうべきなのか。元陸上自衛隊東北方面総監の松村五郎氏、防衛省防衛研究所研究幹事の兵頭慎治氏を迎えた5月24日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

戦術核の演習ロシアの威嚇

欧米の介入を牽制

「『ロシアは核戦争に踏み切らない』と考える西側諸国の首脳などから、最近は大胆な発言が出ている。それに対する牽制として、ロシアは戦術核を持ち出してきた」=松村氏

「軍事的な牽制というより、政治的な牽制だろう。ロシアとしては、欧米諸国の直接介入の動きを何とか封じたい。それだけ深刻に受け止めていることの裏返しでもある」=兵頭氏

伊藤ロシアは戦術核の演習を3段階で進めるとしており、6月には同盟国のベラルーシも参加する第2段階に入ったと発表しました。ゲストのお二人は、ロシアの演習の狙いは欧米に対する牽制であり、戦術核が実際に使用される可能性は低いとの見方を示されました。英仏の首脳や閣僚からは、ウクライナがロシア領内の目標を攻撃したり、ウクライナに欧州の部隊を派遣したりする選択肢を排除するべきではないとの意見が出ています。米国のウクライナ支援に遅れが見えるなか、「ウクライナにおける戦線を立て直さなければならない」との強い危機感が欧州の一部にはあります。

ロシア領内への攻撃が取り沙汰されていることが、ロシアを刺激しています。踏み込んだ形での攻撃には慎重だった米国も、一部容認する方針に転じました。ロシアとしては、演習を行って戦術核を使用するリアリティーを高めることで、欧米の動きを何とか封じたいとの思惑がありそうです。

威嚇ロシアが戦術核演習開始 核戦力誇示©️日本テレビ
威嚇ロシアが戦術核演習開始 核戦力誇示©️日本テレビ

吉田核兵器には、射程5500キロメートル以上の戦略核と、射程500キロメートル以下の戦術核があります。戦略核は、米露が互いに直接攻撃できるような破壊力の大きい核兵器です。それに対して、戦術核は射程の短い小型の核兵器で、地域レベルの戦争で使うことを想定しています。ロシアによる戦術核の恫喝は、ロシアの思惑通りに侵略が進まない局面で、これまでも見られました。欧米も「ロシアを追い込みすぎて、核戦争を起こしてはならない」と考えて、ウクライナへの軍事支援のレベルを慎重に上げてきたところがあります。

今回も現状、牽制にとどまると思いますが、侵略が長期化するなか、ロシアと欧米諸国の駆け引きが活発になる可能性があり、注意する必要があると思います。プーチン大統領は、射程500~5500キロメートルの中距離核についても、米国と結んでいた中距離核戦力(INF)全廃条約が失効したことを受けて、ミサイルの製造を再開すると表明しています。核の威嚇を許してはなりません。