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平凡な少女の成長にわが身を重ねて

台北郊外を舞台に、ひとりの女性の半生を描くアニメ。幼い少女チーは、両親と一緒に下町の幸福路(こうふくろ)に引っ越してきた。幸福って何? と問うチーに、母親は「お腹いっぱい食べられることよ」と答える。素朴で働き者の母親と、稼ぎは少ないが優しい父親に見守られ、元気はつらつ幸せな少女時代を過ごす。チーが生まれたのは、1975年4月5日。それは長らく台湾を統治した蔣介石総統が亡くなった日だった。

本作が初の長編作品になるソン・シンイン監督は、74年台北生まれ。チーの物語は50%ぐらい自分自身のことだと語る。京都大学で映画理論を学んだあと、アメリカで映画修士号を取得し、新聞記者、テレビドラマ脚本家、写真家など、さまざまな職業を経験したソン監督は、短編実写映画制作を経て、12分の短編「幸福路上(原題)」を制作。台北電影奨の最優秀アニメーション賞を受賞したこの作品をもとに4年かけて完成させたのが、本作だ。

小学生のチーの日常と、中学生から大学生へと成長していく過程、そして成人してアメリカに住む姿が、行きつ戻りつ自在に描かれていく。合間にはチーの空想も挿入されて、平凡な少女が成長していくなかでの悩みや葛藤が鮮やかに活写される。

 

チーの成長物語に、台湾の近現代史がさりげなく織り込まれるのも、本作の見どころだ。小学校時代は台湾語が禁じられ、「北京語を話しなさい」と教師が命令。母方の祖母は、台湾の先住民族のひとつアミ族であり、同級生から「野蛮人」とからかわれる。さらに、厳しく弾圧された学生運動や99年の台湾大地震、そして民主化後の総統、陳水扁(ちんすいへん)や馬英九(ばえいきゅう)も登場する。

また、幸福路の町並みにも心を奪われる。台湾に魅了された人なら誰しも見覚えのある、鉄窓花(てっそうか)。古い集合住宅の窓につけられた、さまざまな装飾が施された鉄格子で、台湾の古い町並みの愛らしさを象徴するものだ。そのほか、タイルの壁やアーケード、チーの家の電化製品や雑貨まで、台湾好きにはたまらないレトロ感あふれるディテールが詰まっていて、楽しい。

いつも迷いながら人生を歩いているチーに深く共感し、自分と重ねて見ていくなかで、最も心打たれるのは、成長した彼女が家族からの支えを実感するとき。おばあちゃんは困ったときにいつも助けてくれたし、亡くなった今でも、空想の中で相談相手になってくれる。医者になって稼げと発破をかけてきた両親も、本当はチーの幸せを心から願っている。

最後に流れる主題歌を歌うのは、台湾の歌姫、ジョリン・ツァイ。自身、実在する幸福路の近くの出身というジョリンが「あの頃の私、元気にしている?」と、ささやくように歌い始めると、映画の感動が静かに心のなかに染みわたっていく。

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幸福路のチー

監督・脚本/ソン・シンイン
声の出演/グイ・ルンメイ、チェン・ボージョン、
リャオ・ホェイジェン、ウェイ・ダーション
主題歌/「幸福路上 On Happiness Road」/ジョリン・ツァイ
上映時間/1時間51分 台湾映画
■11月29日より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開

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©Universal Pictures

 

ジョージ・マイケルとワム!の名曲の数々が効果的

ロンドンに住む歌手志望の女性ケイト(エミリア・クラーク)は、友人の家を渡り歩いて気ままに生きている。ある日、好青年のトム(ヘンリー・ゴールディング)と知り合う。ジョージ・マイケルとワム!の名曲の数々が効果的な、クリスマスにふさわしいロマンティック・コメディだ。12月6日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開

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ラスト・クリスマス

監督:ポール・フェイグ

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©2016 ACEK s.r.l

 

映画作りへの情熱とシンプルな生き方

ヴィスコンティやロッセリーニなど名監督と多くの傑作を生んだイタリアの撮影監督、カルロ・ディ・パルマについてのドキュメンタリー。晩年はウディ・アレン監督とタッグを組んだことでも知られる。その映画作りへの情熱とシンプルな生き方に、深く感銘を受ける。11月30日より東京都写真美術館ホールほかにて全国順次公開

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水と砂糖のように

監督・脚本:ファリボルズ・カムカリ