テクノロジーは使い方次第

竹内現在の巨人軍では、監督時代に育てた選手が活躍中です。当時、指導するうえで意識していたことはありますか?

高橋僕が入団したころは、出場の機会を与えることが育成だと考えられていましたが、結果が出やすい環境をつくるのも今の時代は必要なのかな、と思いますね。たとえば、何かを摑むまで、ある程度の時間的な余裕をみてあげる。そういう安心感を与えることで、大きく伸びる選手もいましたから。

竹内一人ひとりの個性を見極めることが大事、ということですね。

高橋相手の話を聞くことの大切さを、指導者の立場になって痛感しましたね。自分と相手の考えが同じとは限りませんし、そもそも目指す方向が違ったりします。

竹内とくに、感覚的なことをアドバイスするのは難しそうですが。

高橋そうなんです。たとえば僕がバットを振って球を捉えるときの「当て感」というものは、なかなか言葉にして伝えにくい。ですから自分の経験を押しつけるのではなく、本人に合う方法をともに探してゴールを目指すように心がけました。いずれにしても指導する側には、我慢も必要です。

竹内スポーツの現場では、データの記録はもちろん、フォームの分析などにデジタル技術がますます活用されていますね。この流れについてはどう見ていますか?

高橋間違った努力をしないで済むという点では、とてもいいことだと思います。とにかくあらゆるデータが拾えるので、長所や短所を客観的に知ることができる。選手が納得してやるべきことに集中できるのは、僕らの時代にはなかった大きな進歩ですね。ただ、子どもたちには「YouTubeなどを観るのはいいけど、どうしてそのプレーができるのかを理解してから参考にしてね」とアドバイスするんですよ。失敗も含めた途中経過を抜きに結果を求めてしまうというか、近道を知りたがるので……。あと、僕がよく言うのは、「基礎力が大事」ということ。土台がないとその場しのぎになりますから。

竹内それは同感です。教育現場でも、基礎力は大事だと伝えているんですよ。話は変わりますが、近年、メジャーリーグでは投球間の時間を制限するピッチクロックが導入されたり、韓国プロ野球では、AI審判が採用されたりしているそうですね。

高橋ピッチクロックの導入で、試合時間の短縮やスリリングな展開が期待できるなどのメリットがあるのは確かでしょう。ただ、野球は一球一球の〝間〟を楽しむスポーツでもあると思うんですね。日本のプロ野球でどちらを取るのかは、けっこう難しい問題かな、と。AI審判も、誤審がなくなるのはいいことなのですが。

竹内現役時代、「それはないだろう」という判定をされたことは?

高橋何度もあります(笑)。もちろん腹も立ちましたけど、そういうアクシデントが試合を面白くすることもありますから。日本でもリクエスト制度(ビデオ判定)が導入されましたが、一瞬の判断の結果を問われる審判はさぞつらいだろうな、と思うこともあります。