《マイ・ネーム・イズ・マイケル・ホルブルック》ミーカ

今を象徴するポップ・アイコン

ひと昔前までは、洋楽のアーティストと言うと、アメリカ、イギリス、フランスと、それぞれの国ごとに異なる顔や文化の色と匂いがしたものだったけれど、今は違う。例えばその典型が、イギリスから出て来て、ヨーロッパ、日本でも人気のシンガー・ソングライター、音楽プロデューサー、グラフィック・デザイナーのミーカ(MIKA)だ。

知らない人は、この名前だけだと女性だと思うかもしれないが、本名をマイケル・ホルブルック・ペンニマン・ジュニアというイギリス在住の36歳の男性だ。今回出したアルバムが、まさにその本名を正面から名乗っているタイトルだから面白い。

今作がデビューから5枚目となるアルバムで、キャリアは13年目。お母さんはシリア系レバノン人で、お父さんはアメリカ人。レバノンのベイルートで生まれ、1歳の時に内戦を逃れてパリに移住するも、父親の仕事の関係でクウェートへ。お父さんがアメリカ大使館勤務だった時にその大使館が襲われ、以降イギリスで育っている。ちょっと英国訛りのキングス・イングリッシュで、歌う時はお父さんゆずりのアメリカンな発音。フランス語やスペイン語も話せるという。ロシア人のソプラノ歌手に指導を受けた歌は、裏声を多用するソフトで甘い声が魅力で、自身でもバイセクシャルだと言う通り、文化も国も肌の色も性別も超えた、まさに今を象徴するポップ・アイコンなのだ。

どの曲もポップな日常性と、正直で素直な心情に溢れていて親しみやすいし、なかでもシングル・ヒットしている〈タイニー・ラヴ〉は、アルバムのトップと13曲目でも再登場。「僕の名前はマイケル・ホルブルック。1983年生まれ」と歌われるラヴ・ソングが、このアルバムとミーカの魅力を凝縮しているようで、この1曲だけでもファンになる人は多いと思う。

 

《マイ・ネーム・イズ・マイケル・ホルブルック》
ミーカ
ユニバーサル 2500円

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《ジェイミー》ブリタニー・ハワード

力強さと普遍性を持って、グイグイと迫ってくる

ミーカに較べると、個性の強さ、こだわりとエネルギーの強さでは対照的なのが、ブリタニー・ハワードのソロ・アルバム《ジェイミー》だ。

ブリタニーはアラバマ・シェイクスのギタリストでボーカリスト。その名の通りアメリカ南部のアラバマ州から出て来たバンドで、ほかのメンバーは白人だけれど、ブリタニーは「黒いジャニス・ジョプリン」などとも言われている肌の黒さからも、歌い方からも、サザン・ソウルをルーツに持つ人であることは間違いない。

2011年に4人組(ツアー時は5人)でデビュー。初めてのフル・アルバムで、2013年のグラミー賞では最優秀新人賞をはじめ3部門にノミネート。さらに2015年に出したセカンドアルバム《サウンド&カラー》では、グラミー賞の6部門にノミネートされ、最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム賞、最優秀ロック・ソング賞、最優秀ロック・パフォーマンス賞を取って、16年に来日。オルタナ・ロック・ファンにはよく知られている。

今回、そのブリタニーのソロ・アルバムを聞いて、「これを耳にしたからには、何がなんでも書かなければ!」という衝動に駆られてしまった。

グラミー賞の受賞記録からもわかるけれど、ソングライターとして実にすごい人なのだ。アルバム冒頭の〈ヒストリー・リピーツ〉は、「歴史は常にくり返し、人は自分自身に敗北する。だからもう二度と嫌だ。押し付けないで!」と叫ぶように歌う歌に、個人史としての“くり返し”だけではなく、ジョン・レノンの〈イマジン〉に通じるメッセージがある。とにかくどの歌も、力強さと普遍性を持って、グイグイと迫ってくるのだ。

ロックの純度を持つ貴重な一枚だと思う。

《ジェイミー》
ブリタニー・ハワード
ソニー 2400円