立川談春さん(右)と酒井順子さん(左)(撮影:洞澤佐智子)
17歳で立川談志さんに弟子入りし、古典落語の名手といわれる立川談春さん。変化の激しいこのご時世に何を思い、落語の灯を繫いでいるのでしょうか。大の落語好きで、長年の知人でもある酒井順子さんと深く語り合いました(構成=篠藤ゆり 撮影=洞澤佐智子)

つらい時もユーモアが空気を変える

酒井 落語にはさまざまなタイプがありますが、私は「夢金(ゆめきん)」や「文七元結(ぶんしちもっとい)」など、少し暗めの噺から談春ワールドにひき込まれました。

談春 酒井さんが落語を好きになったきっかけはなんだったの?

酒井 父が寝る前にラジオで落語を聞いていて、その時はなにが面白いんだろうと思っていました。でも、30歳を過ぎて自分も人生の山だの谷だのを経験すると、落語の中の人たちが急に身近に思えてきて。おばあさんになっても最後まで観に行くのは落語と文楽だろうな、と。

談春 落語と文楽? なぜ?

酒井 どちらも、自分の中の原始的な部分を刺激してくれるというか。歌舞伎は役者さんが演じているのを私が観ているという感じですが、文楽は人形なので自分がその中に入り込める。落語もひとりの演者さんがすべての役をやっているので、やっぱりそこに自分が入っていけるんです。

談春 なるほどね。落語は演者ひとりでセットもないし、手ぬぐいと扇子だけ。(立川)志の輔兄さんも(春風亭)昇太兄さんも「なんにもないから、なんでもある」って言ってたけど、つまり、どれだけ聞いている人の頭の中で世界が広がっていくか。これって、本来は日本人に合った芸能だった。

酒井 そういう気がします。