概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
フィリピンの女性市長に中国の「スパイ」疑惑が浮上している。フィリピン人になりすました中国人だとの疑いが持たれており、フィリピン当局も捜査を進めている。中国は、外国の政界や公職に対する介入を強めている可能性がある。興梠一郎・神田外語大教授、小原凡司・笹川平和財団上席フェローを迎えた7月9日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
不可解な市長侵入する中国
狙われた公職の座
「オーストラリアでは野党議員が買収されるなど、以前から似た問題は起きていた。まだ捜査段階だが、今回も政界に食い込もうとしていたのではないかと疑われている」=興梠氏
「事実なら、フィリピンの政策を中国の思惑通りにしたいのだろう。外国人が簡単に入り込めて、市長に立候補できてしまうところを突いてきた。日本も他人事ではない」=小原氏
飯塚疑惑が浮上しているのは、マニラ北部バンバン市のアリス・グオ市長です。警察がバンバン市内にあるオンラインカジノ運営会社を詐欺や人身売買の疑いで摘発したところ、グオ市長が施設の土地と会社の株式を所有していることが分かりました。さらに捜査を進めると、グオ市長の不可解な経歴が判明したのです。フィリピン国家捜査局によると、グオ市長の指紋は、何と2003年にフィリピンに入国した中国人女性のものと一致。グオ市長が他人の個人情報を盗んでフィリピン人になりすましている可能性が出てきたのです。本物のアリス・グオさんとされる写真も公開されました。
吉田事実なら、市長という公職の座が今回狙われたことになります。中国は、外国の政界や研究機関に食い込んで、影響力を行使したり、機密情報を盗んだりする工作を世界で行っているとされます。「スパイ」と言うと、日本人は映画の世界のように感じますが、危機感を持つべきです。
日本でも、産業技術総合研究所の中国籍の研究員が研究データを中国企業に漏洩した疑いで逮捕されました。産総研は国の研究機関です。捜査当局も目を光らせていると思いますが、実態をすべて把握できているとは限りません。そして、国、地方を問わず、日本の政界に対する影響力工作を防ぐことはできているのか。あの手この手と手法を変えながら、中国は迫ってきます。自衛隊も標的になるかもしれません。無防備ではいけません。
飯塚中国の外国への政界工作は、年々顕在化しています。オーストラリアでは17年、野党の上院議員が中国人企業家から多額の献金を受け取り、中国政府に有利な発言をしていたことが明らかになりました。中国は「内政に介入する意図はない」と主張しましたが、オーストラリアは海外からの献金を禁止するなどの対抗策を打ち出します。オーストラリアが中国と距離を置く、大きなきっかけになりました。ニュージーランドでも、中国出身の国会議員が過去に中国軍関係の大学で教えていた経歴が発覚しました。
その後も、英国などで似たような手口による問題が起きています。今回もフィリピンの政界に中国の影響力を行使して、政策を中国寄りに変えたいとの思惑があるのでしょう。地元の報道によると、グオ市長の父親は中国・福建省で会社を経営しているといいます。グオ市長は中国側の誰と連絡を取っているのか、後ろで中国政府とつながっているのかどうか。フィリピン当局の捜査能力が問われます。