「後の喧嘩は先にしろ」

主役は自分じゃなくて、人様なんだと。そう思うようになったのが噺家になって3年ほど経った22歳の頃でした。今から考えたら当たり前のことなんですけど、そんなことにも気づいてなかったんですね。

ただ、そう頭を切り替えたのが良かったのか、当時の名人上手、売れっ子に可愛がられました。それこそ、当時は(桂)文楽、(古今亭)志ん生がいらっしゃって、落語の本当にいい時代でした。私自身(三遊亭)圓生、(林家)正蔵、(柳家)小さん、(林家)三平、(三遊亭)圓歌、(古今亭)志ん朝、(立川)談志、(月の家)圓鏡、(三遊亭)圓楽、みなさんにかわいがってもらいました。本当に、ありがたいことです。

師匠の正蔵の言葉で「後の喧嘩は先にしろ」ということを若い頃に聞いて、今も本当にそうだなと噛みしめています。

何かあった時に「またいつか良いタイミングで」なんて先送りにすると、どちらにとっても良くない。その間ずっと気が重いし、関係も悪くなる。何かあったら、そこで謝るなり、しっかり話をするなりしないと誰も得をしない。

『笑点』で五代目圓楽が司会をやっていた時、ダメ出しというか、番組の後に私を叱ってくれるんです。そうなると、その後の師匠の仕事を聞いて、そこについて行くんです。お供をさせてもらって、しっかり謝って、その日をしっかりと終わらせる。そうすると、翌日、師匠の顔がスッキリしてるんです。

こっちは怒ってもらってありがたいことでもあるんですけど、師匠だって怒りたくて怒っているんじゃないところも多々ある。そして、怒ると「あれで良かったのかな」とかいろいろ考えもするわけです。それを引きずると、師匠につらい思いをさせてしまう。だったら、すぐに謝って、行動で示して、流れにケリをつける。これは、ずっと実践してきました。