99%苦しい中の一瞬の喜びのために

手がけた小説や映画がヒットしていると、活動が順調に見られがちなのですが、実は作っていて楽しいのは一瞬。苦しいのが99%。理由は、自分の出しているものに対して、絶えず不満だから。映画でも、たとえば『百花』で主役の菅田将暉くんや原田美枝子さんを撮っていて、なんでもっといい芝居を引き出せないんだろう、と悩み続ける。

でも、たまにいい画が撮れたり、とんでもないお芝居が出たりすると、とてつもなく嬉しいんです。オリンピック選手のごとく、競技時間はほんの数分でも、それまでの努力は4年ある、という感覚に近いかもしれない。取材している時も書いている時もほぼ苦しいんですが、たまに「こういうことが書けた」と、自分でもびっくりするほどのいい一行が書ける時があるんです。それは神様が頑張ったことに対して、蜘蛛の糸を垂らしてくれたような瞬間でもあって。

その瞬間が気持ちよすぎて、手前の苦行がすべてOKになるような仕事。だから、さほど楽しい感じではない(苦笑)。それでも続けていられるのは、自分の問題だからだと思います。作品を作るモチベーションが、誰かのためにとか、みんなを喜ばせるためにということなら続かなかった。自分の切実さから発生しているものだから、続けた。だから、受け手としても、作っている人の切実さが感じられる映画や小説が好きです。

これは絶対に書かなきゃいけない、撮らなきゃいけないものだった。その作り手の切実さが、ごく稀に読者や観客と爆発的に共鳴するときがある。全クリエイティブの1%にしか満たない、そんな奇跡のような作品がアカデミー賞を獲ったり、大ベストセラーになったりするのだろうと思っています。