今のテーマは“センス・オブ・ユーモア”

順調そうに見られるのと同時に、軽やかに見られることもありますが、僕はとても重やかです(苦笑)。だからこそ “センス・オブ・ユーモア”が最近のテーマです。しんどいことが多い時代だから、なおさらのことユーモアを大切に。僕はそれをチャップリンの作品から教わりました。今作もユーモアはちりばめていて、例えば、主人公が管理する会社の金庫の番号が「5963(ご苦労さん)」とか。シリアスさの横に、くだらなさみたいなものが混じっていることがリアリティだと思っています。

チャップリンの言葉で、「人生は近くで見ると悲劇だけれども、遠くから見たら喜劇である」という名言があって、それに尽きる。目の前には嫌なことや絶望が溢れているけれど、これを2年後、3年後に振り返ると、「私はどうしてあんなことで悩んでいたのだろう」と思うことがほとんどではないでしょうか。なので、今の悩みに寄りすぎず、引いてみる。

今作も、主人公たちが乗馬クラブで馬を取り合う場面で、本人たちはすごく切実でも、引いてみるとどこか喜劇的に感じる。チャップリンの映画を観ていると、自分の人生を喜劇としてとらえようと思える。いつもチャップリンは悲惨な目に遭う物語を描くわけですが、みんなはコメディとして捉えている。もしかするとセンス・オブ・ユーモアは、人間に与えられた生きるための知恵なのかもしれません。

『私の馬』の発売を控えながらも、すでに次作のテーマも自分の中にあります。それは“不老不死”。昨今は男女問わず、美容や健康の話だらけ。年を重ねてもどうやって奇麗なままでいられるか、長生きできるかという話も多い。さりとて「死なない」「老いない」ことが、人間にとって幸せなのか? 今取材をしているんですが、これから3年かかると思いますが興味が尽きないテーマです(笑)

 


私の馬』(著:川村元気/新潮社)

「ストラーダ、一緒に逃げよう」。共に駆けるだけで、目と目を合わせるだけで、私たちはわかり合える。造船所で働く事務員、瀬戸口優子は一頭の元競走馬と運命の出会いを果たす。情熱も金も、持てるすべてを「彼」に注ぎ込んだ優子が行きついた奈落とは? 言葉があふれる世界で、言葉のない愛を生きる。圧倒的長編小説!