概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

地球温暖化の影響で氷が解ける北極海。ロシアの軍事的な活動が目立つようになっており、中国も航路開拓や資源開発に関心を示している。連携を深める両国に対抗して、自由で開かれた海にする必要がある。東大先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏、笹川平和財団上席フェローの小原凡司氏を迎えた8月1日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

解ける北極海接近する露中

軍事と経済両面の価値

「氷が解けると他国の艦艇も北極海に入りやすくなり、ロシアは対艦ミサイルやレーダーを置いて警戒している。警戒はしているけど、極度に力を入れているわけではない」=小泉氏

「アジアと欧州を最短距離で結ぶ航路開拓など、中国は北極海の戦略的価値を早くから認識してきた。中国が主導して北極圏の政策を決めるんだという立場を主張している」=小原氏

伊藤北極圏とは北緯66度33分より北の地域を指し、ロシア、米国、カナダなど8ヵ国が領土を有しています。近年は地球温暖化の影響で氷が減少しており、航行可能な時期や海域が拡大しています。安全保障、経済、資源開発をはじめ、北極海の持つ地政学的意味が改めて見直されています。

なかでも、ロシアは北極海沿岸で最大の領土を持つ立場から、影響力を強めようとしています。最近では、沿岸の旧ソ連時代の基地を修復したり、飛行場を再建したりする動きが報告されています。番組では、ロシア軍の3ヵ所の軍事施設を写した衛星画像を用意して、ゲストのお二人に、この数年でロシアが着実に整備を進めている状況を分析していただきました。

衛星画像ロシア軍事施設増加©️日本テレビ
衛星画像ロシア軍事施設”増加”©️日本テレビ

吉田北極海を取り囲む8ヵ国は、北極評議会という北極圏の持続可能な開発などを話し合う枠組みを設けてきました。中国は北極海に面していないので、日本と同じオブザーバー参加なのですが、北極海に強い関心を示していることに注意が必要です。

地球温暖化の影響で、北極海航路は近い将来、通年で航行できるようになると見られています。アジアと欧州を結ぶ航路は、これまでスエズ運河経由でしたが、北極海を経由できれば、その距離は3分の2程度に短くなり、輸送コストも削減できます。そして、北極圏には手つかずの石油や天然ガスが埋蔵されていると予測されます。

ロシア軍事的活動を活発化©️日本テレビ
狙い ロシア軍事的活動を活発化©️日本テレビ

中国はこうした経済的な利益を狙っており、北極圏も巨大経済圏構想「一帯一路」の対象に含めていることを忘れてはなりません。日本政府の関係者から聞いたのですが、中国の砕氷船の技術は米国や日本をしのぐレベルになりつつあるということです。今後の動きを警戒する必要があります。

伊藤自然環境も時代によって変化します。そして、各国の政策や国際関係に影響を与えます。その一つが北極海であり、どう利用するのか、どう協調するのかが問われています。

ロシアが北極圏に軍事的な関心を高めていることは間違いなく、警戒をしなければなりません。その一方で、小泉さんは、ロシアが実際にやっていることは、旧ソ連時代の基地の修復や再建であり、この地域を軍事要塞化しようとしているわけではないと指摘されました。同じ北方なら、北大西洋条約機構(NATO)に加盟したフィンランドやスウェーデンに対する備えを急ぐ方が、ロシアとしては優先順位が高いはずだということです。どこまでを警戒するべきで、どこからが過剰反応になるのか。専門家の知見を生かし、冷静に判断することが大切です。