ほぼ全編が、会話!やがて世界的陰謀が明らかに
「一体、誰が訳せるのよ」と思われていた超絶技巧のメガノベル、ウィリアム・ギャディスの全米図書賞受賞作『JR』の翻訳で、第5回日本翻訳大賞に輝いた木原善彦。その木原が2000年に訳し、『JR』の売り上げ好調につき、このたび改訳復刊された小説が『カーペンターズ・ゴシック』だ。
古いゴシック様式の館が舞台で、全編のほとんどが会話で成立している。中心人物は、賄賂のやりとりが暴かれそうになったため自殺した、鉱業界の大物の娘エリザベスと、その夫ポール。賄賂の運び屋をしていた彼は、金目当てでエリザベスと結婚したのだ。ところが、遺産はアドルフという男が管理するよう委託されており、手を出すことができない。山師気質のポールはメディアコンサルタントとしての成功を夢みて、さまざまなうさん臭い事業の立ち上げに関わって、せわしなく動き回っているのだが──。
ひっきりなしにかかってくる電話。怪しい男たちの来訪。事情がわかっていないエリザベスは、ただただ翻弄され、ポールはそんな妻に苛立ち、ひどい言葉をぶつけ続ける。文学界イヤな亭主選手権があったら、必ずや上位ランクインする男、それがポール。で、そんな2人の不毛なやりとりが中心となる物語の中に、館の家主やエリザベスの弟の思惑まで絡んできて、やがて巨大利権をめぐる世界的陰謀へと話は広がっていくのだ。
読み始めは会話中心の語り口にとまどうけれど、愚行につぐ愚行の全容が明らかになっていくにつれ、笑ってしまうこともしばしば。悲劇と喜劇は表裏一体という読み心地が味わえる。描かれているのが今日的な問題でもあるので、初訳時よりも今読むほうが響くはず。
著◎ウィリアム・ギャディス
訳◎木原善彦
国書刊行会 2800円