意地を張らない小競り合い

能町 大阪らしいエピソードで思い出したことがあって。珍しくモノレールに乗ってたんです。あ、モノレールじゃなくて、港のほうを走ってる……なんだっけ?

ヒャダ ニュートラム?

能町 そう、ニュートラム。それに乗ってたら、3駅くらい乗ったところで、近くのおっちゃんが隣にいた夫婦に対して、急に怒りだしたんですよ。しばらく何も言わずに乗ってたのに、「さっき乗ったとき、あんたぶつかったやろ!」と言いだして。怒るのを3駅の間、我慢してたんですよ。

一同 (笑)

能町 「いや、3駅我慢したならそのまま我慢しようよ」と思ったんですけど。「これはケンカになるか?」と思ったら、言われたほうのおっちゃんが「あ、そうでしたか。それは気づかずにえらいすみませんでした」みたいなことを穏やかな口調で言って。そしたら怒ったおっちゃんがちょっと微妙な感じになって。

ヒャダ 振り上げた拳が……。

能町 振り上げてみたものの、意外と向こうが殴ってこなくて、「あ、すいませんでした」みたいな感じになっちゃったから、「うん、まあ……」みたいな感じで、そのまま降りていって。あそこでケンカにならないのがいいなと思ったんですよ。意地を張らずに。

ヒャダ でも本気でケンカするときは、言葉も汚いし、しゃべるスピードも速いし、距離もめっちゃ近くなりますけどね。こないだ大阪歩いてて、男女がそういうケンカしてるのを見たんすよ。「パグとシーズーのふれあい」みたいな距離で(笑)。

──ボクシングの試合前日みたいな距離で(笑)。

ヒャダ 「あんた、✖✖やろぉ!」「知るかボケェ!」みたいな感じで、スピード感がすごかったですね。

能町 「大阪のハスキーなおばちゃん」を自分に降ろしたときも、なるべく速くしゃべりたくなるんですけど、自分の関西弁能力がしゃべるスピードに追いつかないんですよ。ボキャブラリーはあっても、すぐには出てこない。

ヒャダ そこがやっぱりネイティブとの違いかもしれないですね。ネイティブやったらスラスラスラスラ、とりあえずなにかしら言うときゃ間違いないやろ思ってベラベラベラベラ……。

能町 「言うたらええんやけど、おばちゃん、出てこおへんのや。歳かもしれへんな」

ヒャダ 「しゃあないしゃあない。おばちゃん、もともと茨城やろ? こっちで“いばらき”言うたら茨木市のほうやからね」

能町 「せやな。おばちゃん、茨木市の出身やねん」

ヒャダ 「いや違う。おばちゃんは茨城県や」

能町 「県ちゃうで。あんなとこ行ったことあらへん。なにがあるかもわからへん」

ヒャダ 「大仏やね。大仏と納豆」

能町 「大仏やったら、奈良の大仏さんでよろしいやろ。あそこでもう事足りとるねん」

ヒャダ 「いやまあな。たしかにあっちは鹿おらへんからな」

能町 「鹿おらへんよ〜。鹿のとこまでもうおばちゃん怖くて行かれへんけどな。おばちゃん、大阪府から1回も出たことないからな」

ヒャダ 「おばちゃん、前の旦那が来て『あいつはいばらき言うても、あっちの茨城県のほうやからな』って言うとったで」

能町 「あんな旦那のこと信じたらあかんよ。おばちゃんのこと毎日毎日、殴っとったんやから。あんなんどうしようもない男や。ようけ悪さもしよったからな、今頃は大阪湾に沈んどるわ」

ヒャダ「ほんまかいな! 僕、よく大阪湾で釣りすんのに、そんなんおったらいややな」

能町 「魚が食うとるよ、うちの元旦那を。その魚をあんたが食うとんねん」

ヒャダ 「いややな〜。今度、お墓参りのときに『美味しくいただいてます』言うといて」

能町 「LINE繋がったら言うとくわ」

一同 (笑)

ヒャダ 「LINE繋がるんかい! ゴリゴリ生きとるやんけ!」

(桂銀淑「大阪暮色」を熱唱する久保ミツロウ。2024年6月30日のこじらせライブより)