概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者でコメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
南シナ海で、フィリピンの巡視船が中国の海警船から妨害を受けて撤退を迫られている。国際法を無視する形で南シナ海で実効支配を強める中国に、どう立ち向かうべきなのか。中国は、日本の備えを試すような動きも見せている。興梠一郎・神田外国語大教授、小原凡司・笹川平和財団上席フェローを迎えた9月17日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
緊迫南シナ海中国を許すな
フィリピンをどう支えるか
「中国は、停泊して監視活動を行うフィリピン巡視船の補給路を断ち、『兵糧攻め』にして撤退させた。フィリピンの公船と隊員がいなくなれば、そこを実効支配できる」=興梠氏
「中国は、国際法とは異なる考え方で南シナ海ほぼ全域を自分のものだと主張している。西沙諸島、南沙諸島に続いて、フィリピン寄りの北東側を押さえようとしている」=小原氏
飯塚フィリピンは9月、南シナ海のサビナ礁で中国の動きを監視していた巡視船を撤退させました。中国はサビナ礁で埋め立て活動を行っており、フィリピンは4月から巡視船を派遣していました。フィリピンの発表によると、巡視船は中国海警船から衝突されるなどの危険な行為を重ねて受けてきました。巡視船への水や食料の補給まで妨害されるようになったため、撤退を余儀なくされたとしています。
サビナ礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあります。領有権を主張する中国の覇権主義は許されませんが、私は、フィリピンも中国の妨害行為に何とか耐え、サビナ礁に残るべきだったと思います。全面的に撤退してしまうと、中国の実効支配が進んでしまい、取り戻すことはかなり難しくなります。撤退について、フィリピン国内でも、ヘリコプターで水や食料を補給したり、他の巡視船と交代したりして監視を続けるべきだったと、政府を批判する声が上がっています。
吉田オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年の判決で、南シナ海を巡る中国の主張を退けました。ルールを守ることが国家と国家の関係を安定させる礎です。しかし、中国に行動を改める様子は見られず、実効支配と軍事拠点化を進めています。「九段線」のような国際法を無視する主張を行っていますが、「南シナ海は自分たちの内海なんだ。全部自分たちのものなんだ」という態度は許されません。
中国には、海軍、海警局、海上民兵という軍事組織とそれに準じる組織があり、幾重にも圧力をかけてきます。中国とフィリピンの国力の差を考えると、弱い者いじめそのものです。サビナ礁だけではなく、セカンド・トーマス礁やスカボロー礁でも両国の衝突は起きています。国際社会はフィリピンを後押しする必要があります。
飯塚その通りです。実は今回、フィリピンの同盟国である米国は、巡視船への補給活動を防護することをフィリピンに打診していたといいます。米比相互防衛条約の範囲内で行うことができるためです。フィリピンは自分たちで対処したいと断り、実現しませんでした。マルコス政権は前政権の方針を転換して米国との関係を改善していますが、中国との経済の結びつきに配慮するところがまだあるようです。
これでは中国の思うつぼであり、フィリピン単独で中国に対抗することは非現実的です。海上保安能力にかなりの差があります。フィリピンの後ろには米国がいるということを、中国にしっかり見せる必要があると思います。中国が最も恐れている国は米国です。どこまで踏み込むと、米国は加勢してくるのか。そこを探るために、中国は妨害行為を繰り返しています。フィリピンも米国と一緒に対処する覚悟を国内外に示すべきです。フィリピン寄りの海域まで中国に入り込まれると、南シナ海が本当に中国の聖域になってしまいます。安全保障上の危機です。