身分や立場による差別なども否定
寅子たちが目指す平等は性別に関することだけではない。身分や立場による差別なども否定している。いまだ誤解している人もいるようだが、この朝ドラは男女間の差別、格差だけを描くような底の浅い物語ではない。
たとえば、寅子と明律大法学部の同級生である男装の山田よね(土居志央梨)、3人の子どもの母親である大庭梅子(平岩紙)、朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)、華族令嬢の桜川涼子 (桜井ユキ)は甘味処「竹もと」で勉強会を開いていた。
第27回からはその場に涼子の付き人・玉(羽瀬川なぎ)が加わり、彼女も法律書に目を通すようになる。当初、玉は5人から離れた席に座っていたが、寅子たちが輪の中に迎え入れた。
崔が朝鮮へ帰国することになった第28回には寅子の提案によって、みんなで海へ行く。海辺で梅子は「これからもずっと思い出をつくっていくと思っていた。5人、いや6人でね」と口にする。はっきりと仲間として認められた玉は少し照れくさそうだった。
第30回では寅子が教育機会の不平等に対する怒りを見せた。寅子が2度目の挑戦で高等試験(現・司法試験)に受かったため、母校の明律大が開いてくれたお祝いの記者会見での席上だった。記者の1人が「日本で一番優秀なご婦人」と口にすると、寅子は語気を強めてこう言った。
「高等試験に合格しただけで女性の中で一番なんて口が裂けても言えません。志半ばであきらめた友、そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかったご婦人方がいることを私は知っているのですから」
貧困などを理由とする教育機会の不平等は今も続く問題。吉田恵里香氏の脚本は過去を振り返る物語のように見せながら、いたるところに現代を投影させている。これも視聴者を惹き付ける理由に違いない。