『奇跡の集落やねだんを取材した日々』著◎山縣由美子

 

ひとりの若いリーダーがV字回復のきっかけに

タイトルの「やねだん」は地元の訛りで、正式には「柳谷(やなぎだに)」という集落名だ。鹿児島県鹿屋(かのや)市にある。田舎の集落によくあるように、過疎化と住環境悪化の悪循環にはまっていた。鹿児島は畜産県として有名だが、なかでもやねだんは人より牛や豚のほうがずっと多く、家畜の糞尿臭がひどかった。そのせいでよそから人が入ってこないし、若者も逃げ出す。

ところがある時、慣例よりも一世代若い55歳の男性が集落のリーダーになり、やねだんは転機を迎えた。家畜の糞尿が臭いなら、臭くなくする方法を考えよう。みんなが誇れる地元にするために、みんなの手でなにかを作ろう。新リーダーは、もはや地域行事さえ消滅していた集落に、奇跡のV字回復をもたらしたのである。

著者は地域密着型のアナウンサーとして活躍してきた報道ウーマン。テレビの世界で自分がなすべきことを模索するうち、やねだんに出会い、この集落の再生に併走しながら熱心に取材を続けてきた。この本にはそんな情熱がこもっている。

家畜の糞尿臭を激減させたのは、地元の土のなかにいる微生物だった。この微生物を「土着菌」として育てて売ったら、大成功した(悪臭に悩む畜産地域は全国にある)。画期的な悪臭解決策が生まれたことで視察団も来るようになり、集落は豊かになっていく。

公園を住民総出で手作りしたり、早朝に「土着菌」の育成作業をしたりと、住民はかなり働かされている。でも、自分の手の入ったものがどんどんよくなっていくのを見れば、やりがいが生まれる。「人の気持ち」がすべての土台になる。一人一人が誇りをもてるようになれば、地域は死なないのだ。

『奇跡の集落やねだんを取材した日々』
著◎山縣由美子
羽鳥書店 2000円