「演奏が40年前よりいいのは、どうしてなんだ!」
待望の渡辺貞夫の新作は、2019年夏のブルーノート東京公演を収録した《ライヴ・アット・ブルーノート・トーキョー》となった。
4日間にわたるその公演終盤、長年共演しているドラマー、スティーヴ・ガッドが「サダオの演奏が40年前よりいいのは、どうしてなんだ!」と言っていたことが印象に残っている。
また、ピアノのラッセル・フェランテは「サダオの作曲が好きだ。弾いていて、気持ちがいいんだ」。歌心のあるベーシスト、ジョン・パティトゥッチは「僕たちはサダオが気持ちよく吹いてくれるのが一番だと、音数を減らしていった」と、渡辺に対しての熱い想いを語ってくれた。
このようにスター・プレイヤーたちが渡辺を引き立て、前に出ることなく、演奏している。そんな彼らの心地よいサウンドの中で、みずみずしいサクソフォンの音色で自身の歌を演奏する渡辺。共演者たちの言葉を伝えると、こんな言葉が返ってきた。「それはぼくを立てるためではなく、きっと“音楽のために”そうしてくれたのでしょう」。
〈アイ・ソート・アバウト・ユー〉の哀愁。〈花は咲く〉での、国境を超えた歌の素晴らしさ。このライヴ・アルバムを聴くと、あの時の楽しさがよみがえってくる。
渡辺貞夫
ビクター 3000円
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ミカリンバの全体像をこの1枚で
ミカリンバは、熊本出身のマリンバ奏者ミカ・ストルツマンと、高名なクラリネット奏者であるリチャード・ストルツマン夫妻が組んでいるユニットだ。その新作《タペレバ》が興味深い。
渡辺貞夫の新作に参加しているスティーヴ・ガッドもメンバーの1人で、素敵な演奏を聴かせている。そこに、ベーシストのエディ・ゴメス、ブラジルのマンドリン奏者アミルトン・ヂ・オランダが参加し、バラエティに富んだプログラムを披露した。
タイトル曲の高揚感。続く〈リターン・トゥ・バイーア〉では、ブラジル音楽の喜びが味わえる。一方、弦楽クインテットが加わったチック・コリア作曲〈スペイン〉は、編曲の着想は面白いが、もう少し速いテンポのほうがグルーヴが生まれたかもしれない。
クラシックで高い評価を得ているリチャード・ストルツマンの十八番〈ラプソディ・イン・ブルー〉まで収録されているから、ミカリンバの全体像をこの1枚で見渡すことができるだろう。
なかでも、スティーヴ・ガッドがオリジナル・レコーディングに参加したポール・サイモン作曲〈恋人と別れる50の方法〉は、スティーヴの美しく揃ったドラム・ロール、ミカのマリンバの音色を活かした演奏が躍動感を伝え、珠玉のテイクになっている。
タペレバ
東京エムプラス 2857円
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彗星のごとくデビューした24歳のヴィブラフォン奏者
続いて、彗星のごとくデビューした24歳のヴィブラフォン奏者ジョエル・ロスの《キングメーカー》についても書いておきたい。
ジョエルの繰り出すリズム、そして音色の美しさは、ヴィブラフォンの既成概念を超えている。異なる2つのリズムを複合させたポリリズムを多用し、リズムの間にある“空間”を音楽化する。その最先端の技から、ヴィブラフォンを叩くマレットが長くしなるように工夫した打点の音の聞こえ方の研究まで、細部にわたって丁寧な音楽作りをしているのだ。
そしてなにより、伝えてくるストーリーの雄大さに惚れ惚れする。「ジャズを変えようとしているの?」とジョエルにそっと聞いてみると、「やってみようと思っている」ときっぱりと答えた。初来日公演を含め、よい刺激をもらったと思っている。
ジョエル・ロス
ユニバーサル 2600円