ミュージカル界のニュージェネレーションを目指して

洸平 もうひとつ、フランクさんの音楽が素晴らしいのは大前提として、僕のようにミュージカルに出演するのが6年ぶりという俳優にとっても、今回は自分のカラーで歌えるナンバーが多いのがありがたいです。稽古のときに、「技術も大切だけど、それ以上にソウルを大切にして歌ってほしい」とフランクさんにアドバイスしていただいたことが心の支えになっています。

優也 そうそう、稽古場にもずっといてくださって、「ソウルとエモーションを大事にしてほしい」って。おまけに、僕たちそれぞれに合わせて、キーやメロディを変えてもいいよとおっしゃった。そこまで役者のことを考えてくださる作曲家の方はいないので、嬉しかったし驚きでした。

フランク 僕はもともとジャズの出身で、「自分が書いたとおりに歌いなさい」という作曲家じゃない。バックグラウンドはポップスだし、アンドリュー・ロイド・ウェバーじゃないからね(笑)。歌い手に合った音楽を作ることが楽しいし、それこそが自分の仕事だと思っているので、2人にはもっと自分の個性や性格を出して自由に歌ってほしい。

洸平 そこまで、僕らを信頼してくださっているのが嬉しいよね。

優也 うん、広い庭を与えてもらった気分。洸平君もそうだけど、もともとは僕もR&Bの出身だから、ミュージカルの世界に入りたての頃は「ここはアウェーだな」と感じていて……。

洸平 わかる~。

優也 とくに、日本のミュージカルの世界は音大でクラシックの発声法をきちんと学んできたような方が多いでしょう。だから、もっと正統派の歌い方をしなくちゃいけないのかな?と悩むこともあったけど……。

フランク・ワイルドホーンさん
 

フランク いやいや、2人はミュージカル界のニュージェネレーションだから、お行儀よくする必要はない。よりエモーショナルでセクシーで、なおかつソウルフルな表現を目指してほしい。日本人は行儀を重んじるあまり、感情の壁を乗り越えるのが苦手でしょう。僕が25年前に初めて日本の公演に参加したとき、俳優がステージでいくら素晴らしいパフォーマンスをしても、観客は舞台の途中で拍手をしなかった。でも、それは間違っている。観客は舞台の一部であり、観客のエネルギーがショーを盛り上げてくれるのです。この25年間、そんな日本の観客と舞台をひとつにしようと思って、僕はずっと戦ってきた。その結果、今ではかなり変わってきていると思うけど、まだまだ道半ば。今回の『ケイン&アベル』で、もっと日本の観客のソウルを揺るがすステージを僕たち3人で作っていきたいね。

優也 いやぁ、恐れ多すぎ(笑)!

フランク 欧米でも、現在、ミュージカルのステージに足を運んでくれている観客は高齢化しています。でも、僕はもっと若いジェネレーションをミュージカルの世界に呼び込みたい。そのためには、君たちのような「オールニュー」な才能が必要なんですよ。僕の2つ目の人生哲学は「オールウェイズ・スチューデント」。いくつになっても学び続けていれば、人は決して歳をとらない。毎日が成長できるチャンスです。今回の作品で、僕も自分が成長していけることが楽しみなんですよ。

松下洸平さん
 

洸平 それこそが、作品作りの楽しいところですよね。もちろん、新しいものを作っていくのは簡単ではないけれど、そもそも「新しいクリエイション」がしたくて、僕もこの世界に入ってきたわけだから。確かに、生みの苦しみはあるけれど、その苦しみと真摯に向き合ってこそ、最高のショーを作ることができると思うので。

優也 そうそう、僕たちがやるんだから! 今回のミュージカルはこれまでの型にはまらないものを、みなさんにお届けしたいよね。