<執筆によせて>
《幕末》を書く機会をいただきました。幸甚とはまさにこのことです。
あまたの人が心惹かれ著述した日本の大転換期。史実も人物もあまりに鮮烈で魅力的なので、ひたすら実直に描こうと肝に銘じます。ただ─。
「誰の目で見るか、どこまで広く見るか」
人は見たいものだけを見る、とは昨今よく耳にします。勝者が歴史を作るとも。だとしたら敗者とされた者の目から見た情勢はそれなりに様相が変わるはずです。また一国の政変に焦点を絞らず画角を広くとれば、大洋大陸を隔てた遠い国々の複雑にからみあう意図が見えてくる。はたして。
今見えている出来事は本当に今見えているままなのだろうか?
小栗忠順という幕臣の目を通して見る《幕末》には強烈に《今》を感じます。
身分制を打破し、個の力を存分に発揮できる社会は繁栄をもたらす。けれど行き過ぎれば能力主義という新たな身分制になりはしないか。こぼれ落ちる者たちの存在がかき消されてはいないか。《公(おおやけ)》は本当に公共のために力を尽くしているか。世界規模で同時多発的に何かが起きている、うねる潮流の正体が見えない、止められない。
小栗も予感したはずです。「時代が変わる」。