『人生、上出来 増補版 心底惚れた』より

やっぱり劇が好き

悠木 そうすると、そのことは非常につらいことで、めんどうくさいことですよね。ほんとに逃げたくなるときあると思うんですよ。やっぱり劇が好きなんですね。

渥美 そうなんでしょう、と思うね。

悠木 そのめんどうくさがり屋の渥美さんがね、映画といい劇といい、とにかく一人でよく出かけられますよね。

渥美 あなたも、そうじゃない。ぼくは女優さんで、あなたといちばん会うよ。

悠木 おいしいもの食べません? っていうのにつられて行くんだから、ちょっと違いますけど。そのマメさというのは、やっぱり好きなものならいいんですね。

渥美 そう。そうなの。得手勝手なの。わがままなの。あとは、薄情なくらい手を省いちゃう。

悠木 ところが、わたし感心するのは人に迷惑かけないでしょう。手を省いた部分。それは何でしょう。だいたい役者って勝手で、かみさんを泣かしたり、まあもちろん浮気もなすっているかもしれませんけれども、家庭というのを顧みなかったり、人に借金作ったり、そういうふうな迷惑というのも作らずに。

渥美 あまり迷惑のタネを作っちゃうと、自分のコントロールがきまらないでしょう。

悠木 なるほどね。やっぱりそれは好きなものをやるために、振りかかってくるものは省きますね、よけますね。