介護保険制度では「そもそも二人体制は想定外」

確かに、背後に疾患があるとすれば、上司から部下など、力のある上位の者からのハラスメントと同列には扱いにくいし、当人のためにより適切なケアにつなげる対応が必要という側面もあるだろう。一方で、「担当交代」「男性ヘルパー派遣」「二人体制」など、事業所の自助努力には、経営面からも人員確保の面からも無理があるという。

「介護保険制度では、そもそも二人体制は想定されていませんから、現状ではすべて事業所の持ち出しになってしまいます。また、適切な交代要員のいないこともありますから」

介護現場におけるセクハラ被害をどう防止するか。厚労省がこれから調査に乗り出すというが、制度変更に至るとしてもだいぶ先の話になってしまうだろう。今のセクハラ被害に対処するには、緊急避難的な措置が必要だ、とS所長は言う。

利用者と1対1で向き合う介護従事者が、利用者本人やその家族からハラスメントを受けた時、所属する事業所に訴えることが第一歩だが、さて、その先はどうなるのだろう。事業所の自助努力にも限界があるとしたら、次は業界全体としての取り組みということになる。

解決には、ヘルパー個人はもちろん、各事業所の経営者からも相談を受け付ける窓口の設置や、専門家から成るチームでセクハラを介護現場の課題としてどう取り上げるか検討することも必要になるだろう。

現在、費用面と人手不足がネックとなっている二人体制の訪問については、セクハラや暴力リスクのある利用者宅を、介護従事者や看護師が複数で訪問する場合の費用補助を行う自治体が現れた。

兵庫県では、「訪問看護師・訪問介護員安全確保・離職防止対策事業」の一環として、防止マニュアルの検討や相談窓口の設置に加えて、二人体制で訪問看護・介護を行う際の費用補助を2017年度よりスタートさせた。

きっかけは、2016年秋に神戸市内の訪問看護ステーション所長から、現状調査をもとにした相談を受けたこと。県議会でも取り上げられ、予算措置を講じるまで数ヵ月というスピーディーな対応だった。

緊急避難的な対策は、国の制度改革を待たなくてもすぐにできるのだと思えば、心強い。兵庫県の取り組みを先駆けとして、こうした試みが全国に広がることが期待される。

在宅介護が推奨されるなかで、介護現場のセクハラにどう対応するか。利用者への適切なケアの提供と、介護従事者が暴力やセクハラ被害に遭わない対策の両方を同時に考えていくことは、行政、事業者、利用者とその家族を問わず、介護に関わるすべての人の責務だろう。