襲われるのは女性だけとは限らない

セクハラ被害に遭うのは女性ヘルパーだけとは限らない。

Bさん(68歳)は、これまでに何度もほかの訪問介護事業所に断られてきた札付きの利用者。スキルの高い男性介護士でなければ手に負えないだろうと、ベテランのケンジさん(39歳)に白羽の矢が立った。

「クレーマーとしても有名で、誰もが尻込みするタイプの利用者さんでしたが、僕ならやれると過信して、引き受けました」

アルコール依存症のうえに目が不自由で、手足に障害を持つBさんは、アパートで一人暮らし。かつては暴力団の幹部だったという噂もあるくらい強面(こわもて)の男性だった。これまでも、一升瓶を抱えてヘルパーの訪問を待ち構え、「飲め!」と無理強いしたり、タバコに火をつけて「吸え!」と脅したりするので、何人ものヘルパーから拒絶されてきたという。

「要介護3を認定されていましたので、週3回は訪問介護に入ります。男同士ということもあって、僕にはさほど強面なところは見せなかったですね。ただ、訪問のたびに酒を用意したり、出前の寿司をとっていたりするので閉口しました」

もちろん、仕事上そんな供応を受けられるはずもない。だが、ただ断るとすごむので、断り方にも工夫が必要だったという。

「『勘弁してくださいよぉ』と泣きを入れながら適当に流すしかないんですが、僕が帰ってから事業所にしつこくクレームの電話をするんです。事業所のほうでもわかっているので、ひたすら電話口で謝りながら、Bさんの気が済むのを待つという状態でした」

それでも何度か訪問するうちに、気心も知れてきて、冗談も交わせるようになってきた。そんな時、突然、Bさんから愛の告白。「好きだ!」と言いながら、ものすごい力でケンジさんに襲いかかってきた。

「さすがに限界でしたね。ほうほうの体で逃げ出して、僕の訪問介護はこれにて終了。その後Bさんは、アルコール依存症の治療のため入院することになったそうです」

自宅という「密室」の中で二人きりになることの多い訪問介護。女性であれ男性であれ、セクハラに遭うというリスクは避けられないのだろうか。

 

首筋に息を吹きかけ「いい体してるね」と

いや、自宅介護の現場で対峙するのは利用者だけとは限らない。利用者と同居する家族、彼らがセクハラをすることだってあり得るのだ。ミツコさん(45歳)の担当する80代の女性は、寝たきりで全介助が必要。週に5日は訪問しているが、同居する50代の息子の言動に悩まされていた。

「利用者さんの身体介助のほかに、食事の用意や洗濯を時間内に終わらせようと必死な私の一挙手一投足をじっと見ているんです。ただ見ているだけで手伝おうとはしません。流しで洗い物をしていると真後ろに立って見つめられるので、視線を感じて気持ち悪いんです」

手抜きせず仕事をしているか監視しているのかと思っていたミツコさんだったが、どうもそうではないことが判明した。「監視だけでも十分失礼な話なんですが、私の体を眺めていたことがわかりました。さらにある時、私の真後ろで首筋に息を吹きかけ、『いい体してるね』と囁いたんです」