戦地で母が娘に残す生きる証
7歳のバナ・アベドが、シリアのアレッポから「I need peace.(わたしは平和が欲しい)」とツイートしたのは、2016年の9月。平和を願う彼女の声が大きな反響を呼んだのが記憶に新しい。少女が簡潔な言葉で訴えた状況を、ドキュメンタリー『娘は戦場で生まれた』は迫真の映像で伝えている。
監督ワアド・アルカティーブは、未曽有の戦地と化したアレッポで母となる。彼女は一市民として、母として、銃ではなくカメラを手に、政府軍の爆撃、空爆により荒廃した市街地、そのなかで暮らす人々を映像に残し、シリアで何が起きているのかを記録した。
チュニジアの「ジャスミン革命」に端を発した「アラブの春」が、2011年にシリアにも波及し、40年におよぶアサド政権への抵抗運動が始まる。しかし、民主化を求める平和的なデモが続く一方で、政府軍から脱出した司令官が反政府武装勢力「自由シリア軍」を組織し、泥沼の「内戦」へと発展。12年に、政府の治安部隊はアレッポ大学を襲撃した。ワアドは必死に抵抗する学生の一人だった。それから16年にアレッポを脱出するまで、彼女はスマートフォンとカメラで街の惨状を撮り続けたのである。
当初は政府軍の撤退もあり、市民の喜ぶ様子が映し出され、民主化への期待も高まる。しかし、喜びは束の間だった。政権はロシアなどの軍事的な支援を取り込み、反政府勢力の拠点とみなしたアレッポを空爆する。そんななか、ワアドは医師を志すハムザと出会い、結婚し、やがて妊娠。
友人たちに囲まれた二人のささやかな結婚式は救いだ。それは、政権側から絶え間なく攻撃されながらも、20万を超える民間人が普通に暮らそうとしていることを気づかせる。
戦場となった町には死のみならず、出産もあれば、成長する子どももいる。彼らは自分たちの生活がある街を愛しているから、踏みとどまるのだ。ワアドは悲劇だけでなく、自由のために戦う普通の人たちを捉えた。
病院への空爆。爆撃されながらの手術。少しでも安全な場所へと患者を避難させる緊迫した様子。命を落とす医師もいる。多くの怪我人や遺体が病院に運び込まれて、担架を置く場所さえもなくなった。地図に載っている病院が意図的に攻撃されることに戦慄し、クラスター爆弾やバレル爆弾で、多くの民間人が犠牲になっている現実に息をのむ。
16年12月、政権はアレッポを陥落させた。カメラに収められた映像により、12年から16年に起きた「アレッポの戦い」の凄まじい事態を、観る者は追体験する。大勢の難民は今なお困窮し、シリアの悲劇が終わっていないことを忘れてはならない。
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監督/ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
出演/ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、
ハムザ・アルカティーブほか
上映時間/1時間40分
イギリス・シリア合作
■2月29日よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開
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少年の些細ないたずらが……
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2月28日より新宿武蔵野館ほかにて全国公開
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監督・脚本:ラジ・リ
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ジュディ・ガーランド波乱万丈の人生
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出演:レネー・ゼルウィガーほか