『出会っちまった』って思ったんでさ
すると「そりゃ、随分な言いぐさですね。あんたは江戸一の利き者だ。けどてめえの女房の目利きだけはしくじった。おていさんはそう言ってんですね?」と反論する蔦重。
「俺ゃ、おていさんのこと、つまんねえなんて思ったことねえですぜ。説教めいた話はおもしれえし…この人、まともな顔してめちゃくちゃおもしれえって思いましたぜ。縁の下の力持ちなとこも好きでさね」と続けて話します。
さらにはていが、皆のために誰も見ていないときにしっかりと働いていたり、背筋がピンとしているところなどを褒めた後、「『出会っちまった』って思ったんでさ。俺と同じ考えで、同じつらさを味わってきた人がいたって。この人なら、この先山があって谷があっても一緒に歩いてくれんじゃねえかって…。いや、一緒に歩きてえって」と話した蔦重。
ていの前に歩み寄り「おていさんは、俺が、俺のためだけに目利きした、俺のたった一人の女房でさ」と伝えると、蔦重が差し出す手に、ていも自らの手をゆっくりと重ねるのでした。