チャット形式の小説「プリ小説」

久保 いまプライベートメール(*)というのがあって、アイドルは課金したファンの人に、しょっちゅうメールを出さなきゃいけないんですよね。「今日は●●したよ」という日常の報告を見るためだけに、ファンは月500円くらい払ってるんですよ。

*アイドルからのメッセージがメールで届くサービス。通称プラメ。メールが届くことで、アイドルと1対1のコミュニケーションをしているような感覚が味わえる。グループアイドルの場合、メンバーの1人を選んで課金するため、複数のメンバーのプライベートメールを受信したい場合は、人数に応じた課金が必要となる。

能町 そういうのがあるんですね。大変だ。

久保 韓国ではずっと前から定着してるみたいで、日本でも広まってきてるんですけど。で、恋をすると、そのメールの頻度が減るんですよ。

一同 ああーーー。

久保 メールの本数に関係なく金額は同じなんだけど、(今回の件みたいなことがあると)急にメールが減るらしいんですよ。月に2、3回しか来ないとか。多い子は月に何十回も送ってて、たくさん送られることで「私は大事にされてる」と思うファンもいるわけなんですよね。1日たりとも休めないファンサービスを求められるアイドルって、大変だなと思って。

──常にオンであることを求められる。

久保 久保みねヒャダがグループアイドルと同じ扱いだったら、まず発言の分量問題で荒れるよね。「今日ひゃっくん、全然しゃべってなかった」「みつこばっかり映ってた」つって。あと、「みつこ」の隠語の絵文字ができる(笑)。

ヒャダ 半角英語で「mtk」とか(笑)。

能町 やだやだ(笑)。

久保 いやー、分量問題で荒れない客層で良かったよ。

ヒャダ うちのお客さんは箱推しですからね。

能町 100%個人目当てで来てる人いたらすごいですね。「ヒャダさんがしゃべってるのを見に来たのに、今日あんまりしゃべってなかった。もっと平等にしゃべるべき!」。

久保  「やっぱりみね子とみつこ、仲悪いんだ」とか。

能町 「今日、二人とも目が合ってませんでした」。

一同 (笑)

ヒャダ 保護者の視点になって、かわいそうに思えてくるんですよね。「●●さんかわいそう。すごい傷ついてると思う」って。朝井リョウ君の新作『イン・ザ・メガチャーチ』がそういう内容だったんですよ。男性アイドルにどんどん信者として課金していく話。めっちゃ面白かったです。

久保 それ、読むか読まないか、ちょうど迷ってたところ。

能町 昔、お笑いのコミュニティか何かで見た書き込みなんですけど。チュートリアル徳井ってめっちゃ顔がいいから、当然ファンはめちゃくちゃ多かったんですよ。でもその人は、「チュートリアルがすごい好きだけど、あまりにも徳井ファンが多いから、私は福田ファンで行くと決めました」って(笑)。「正直、いま思えばどう考えても徳井のほうが好きだったけど、私は福田のファンということでアピールしてました」みたいなことを書いてる人がいましたね。自分にウソをついてファンになる……そんな自意識あるんだ。

久保 そんなの長く続くの? 「それってあなたの人生に本当に必要なこと?」って言いたい。

──それで福田のこと、本当に好きになったんですかね?

能町 どうだろう……なってなさそうでしたけどね。

久保 そんな感情、ネットで他のファンと交流しないと発生しないからさ。私は他のファンと交流せずにずっと来てるけど、そこで交流が始まると、新たなネクストステージが始まりそうで怖いから、ずっと平和なところにいたい。

ヒャダ  お笑いでもそういうのあるのかな、と思って、いま試しに「さや香 BL」で調べてみたんですけど……。

久保 そんなんじゃ出てこないよ。今のファンは本当に(検索で引っかからないように)潜るの上手いから。

ヒャダ BLは出てこなかったんですけど、なんかLINEのメッセージのやりとりみたいなのが出てきて。

久保 それ、海外でもいま流行ってるの。昔は小説書いたり、マンガ描いたりしてたんですけど、今は好きなカップリングでショートメッセージをやってる(風の)画面をアップするのが、めっちゃ流行ってるんですよ。でもそれ、さや香でやってるんだ?

能町 (その画面を見て)これ、一人で頑張って、そのやり取りを捏造するわけですよね。おもしろ!

久保 たぶん、そのほうがカップリングの生々しい雰囲気が出せるんでしょうね。文章書けなくても、絵を描けなくても、そのフォーマットだとネタが書きやすいんですよ。

──短文のやり取りでいいから。

久保 いやー、現代だなと思いましたよ。

能町 こんな世界があるんだ……。

久保ミツロウ、能町みね子、ヒャダイン
(2025年10月18日のこじらせライブより)